南壁

夕方、またしても仕事をさっさと切り上げて有楽町へ。今度は映画『アンナプルナ南壁 7,400mの男たち』を観るためです。

カルピスソーダにブルーキュラソーを加えたというアンナプルナソーダを持って席に着くと、この日はノルディックスキーヤーの荻原次晴氏のトークショー(10分間)あり。話の内容は映画とあまり関係がなく、なんで?と思いましたが、これは司会を勤めた配給元の女性の質問の流れがそうだったからなので、荻原氏のせいではありません。

さて映画の方はと言えば、これはもう素晴らしいものでした。

“キラー・マウンテン(死の山)”と呼ばれるアンナプルナ。世界で最も危険な山として知られ、登山者の五人に二人が命を落としているという。特にアンナプルナ南壁は、世界で最も危険なルートと言われ、山頂まで8,000mの道程の中、標高7,500m地点で7キロも続く尾根を横断しなければならない。2008年5月、スペインのベテラン登山家イナキ・オチョア・デ・オルツァは、頂上に向かう途上で高山病に襲われるという危機的な状況に陥り、同行者のホリアがSOSを発した。その報を受けた世界10カ国の12人の登山家たちは、自らの死をも覚悟するほどの危険な場所への救出活動に出向いた。

カメラは、この救助のために自分のプランを変更して駆けつけたウーリー・ステック、デニス・ウルブコ、ドン・ボウイ、そして自分も疲労困憊しながらイナキを助けようとするパーティーのメンバー、ホリア・コリバサヌとアレクセイ・ボロトフ、さらにイナキの恋人でありベースキャンプで救出劇の一部始終を見守り続けることになるナンシー・モリンたちを訪ねて世界中(スイス、カザフスタン、アメリカ、ロシア……)を旅し、彼らへのインタビューと一部救出当時の映像を通して、登山家たちの気高い精神と勇気とを描き出していきます。

救出劇の四日間をストーリーの縦軸とし、そこに断片的なインタビューを極めて巧妙な編集によってパズルのピースのように配しながら、映画は一瞬たりとも弛むことなく、クライマックスへと向かっていきます。『クライマー パタゴニアの彼方へ』を観た直後だったので本作も救出成功のハッピーエンドに終わるのかなと思っていたのですが、実際にアンナプルナの稜線でデニス・ウルブコとドン・ボウイが無線を通して聞いたのは、先にC4のテントに入ってイナキを介抱し続けていたウーリー・ステックからの、イナキの死の報せでした。映画の最後の方で映し出されたのは、ヘリコプターで下界へ下りてきた一行の、イナキを救えなかった無念とやるだけのことをやったという安堵がないまぜになったような表情。

ダーフィット・ラマのスポーツ感覚とは対極にある、苦いテイストの結末ではありましたが、これもまた私のフェイバリット・ムービーの一つとなりました。

しかし、上の集合写真に写っているメンバーたちの間にも、その後に苦い運命が待っていました。2013年5月、アレクセイ・ボロトフはデニス・ウルブコとエベレスト南西壁に新ルートを開拓するための登攀中に、事故で死亡。また同じ年の10月、ドン・ボウイはウーリー・ステックと共にアンナプルナ南壁に挑戦するものの、高高度までロープを結ばないことでスピードを稼ごうとするステックの戦術への不安を拭うことができずに取付で敗退し、ステックにソロ登攀(28時間)の栄冠を許すことになります。