原典

せっかくのゴールデンウイークも緊急事態宣言下で登山を控えているため、そのあり余る時間を使って昨年から今年にかけて行った丹沢の古道・廃道歩きの記事をアップデート。加筆の対象とした山行記録は次の通りです。

山神径路(2020/11/28
玄倉から山神峠を越えて玄倉川上流に達する山道。江戸時代から使われていた。
三ヶ瀬古道(2020/12/06
武田信玄の小田原攻めにも使われた古道。中川川流域から地蔵平を経て城ヶ尾峠へ。
塔ノ岳〔鍋割峠越え・尊仏岩跡〕(2021/04/03
寄集落から鍋割峠を越えてかつて塔ノ岳の北斜面にあった尊仏岩へ達する参拝路。
地蔵平〜富士見峠〜織戸峠〜水ノ木(20201/04/11
西丹沢に明治から昭和にかけて存在した大又と水ノ木の二つの林業集落をつなぐ道。

それまでの山行記録であれば、写真を並べて「きれいだった」「楽しかった」「難しかった」と書き添える小学生の絵日記程度の内容で済んだのに対し、こうした由緒あるルートを歩いた記録の場合はその歴史に十分な敬意を表するべきですし、丹沢には誇り高きVR(Variation Route)ハンターの一団がいるので迂闊なことは書けません。

そこでそれぞれのルートや地域の歴史をきちんと調べて山行記録に織り込むために、まずはネット上を渉猟して各種記録を参照しまくるのですが、職場で部下たちに口酸っぱく「伝聞情報や二次資料に頼るな。原典に当たれ」と指導してきた手前、自分としてもWikipediaや個人サイトに書いてあることを鵜呑みにするわけにはいきません。そこでネット情報はあくまで原典を探すためのヒントに過ぎないと割り切り、これはと思う情報があれば原資料を入手することに努めました。

原資料となるのは概ね明治から昭和前半にかけての山岳雑誌の記事ですが、その獲得方法は次の通りです。

図書館
このご時世で多くの図書館が来館サービスを中止していますが、ありがたいことに「国立国会図書館オンライン」には遠隔複写サービス、「東京都立図書館」にも郵送複写サービスがあり、各サイトで蔵書を検索して目次から該当ページを特定し、そのページのコピーを郵送してくれるよう申し込めば概ね半月ほどで写しが手に入ります。
古書店
神保町の古書店街をぶらつくというのは楽しそうですが、時間効率は芳しくなさそう。しかしこれまた「日本の古本屋」という有益この上ないサイトがあり、ここで検索するとそこそこの確率でヒットしてくれます。このサービスに加盟している書店はいずれも対応が早く、購入を申し入れればだいたい翌々営業日には手元に届きます。
ヤフオクやメルカリ
1990年代以降のガイドブックや登山地図であれば売りに出ている可能性があり、あれば比較的安価に手に入りますが、当たればラッキーくらいの感じ。

これらの手段で獲得した戦利品(一部)はこんな感じです。国会図書館と「日本の古本屋」にはたいへんお世話になりました。

さらに、過去の地形図を入手することも欠かせません。これは前にも紹介したように国土地理院の「地図・空中写真閲覧サービス」を使って「旧版地図の謄抄本交付申請」を行えばOK。明治時代にまで遡って地形図を手に入れられるので、時代ごとの山道の変遷が手にとるようにわかります。

こうして入手した各種資料を駆使して冒頭に掲げた山行記録に多少なりともアカデミックな装いを纏わせ、出典は各記事の最下段に「脚注」として明記しているうちに、それぞれのレポートは山行記録というよりWikipedia状態。これら一連の取組みの中でとりわけ自分でも楽しんだのは、「塔ノ岳〔鍋割峠越え・尊仏岩跡〕」に追加した「オガラ沢ブッコシ」というタイトルのコラムの執筆でした。

個人山行記録データベースサイト大手で自分も活用しているヤマレコのマップでは、この山行で歩いた旧鍋割峠のところに「(オガラ沢ブッコシ)」と併記されるのですが、地形的に考えてこれは違うんじゃないか?という疑問を出発点にして想像の翼を広げ、種々の資料にも当たってゆくうちに、丹沢VRハンターの間で古くからの課題のひとつとなっている「オガラ沢乗越・鉄砲沢乗越」の所在について自分なりの仮説(「オガラ沢乗越・鉄砲沢乗越」という名前の峠は実は存在しなかった)を立てるに至り、これを「思考実験」と断り書きをした上で公開したのがこのコラムです。

なお、ここで「思考実験」とした理由は、十分信頼に足りる史料もなく、現地の地形も時代と共に変わっているために実地検証ができない中、「こういう解釈をすれば既存の文献に見られる断片的な記述を齟齬なくつなげることができるのではないか」というひとつの可能性の提示にとどまっているからで、パズル解きのようなものだと思って気軽に読んでもらえればそれで十分です。

さて、これはこれで面白い作業でしたし、この作業を通じて改めて丹沢の奥深さにも開眼できたのですが、自分の本分はあくまでアルパインや沢登り。本当は、こんなことをしている時間があるのなら岩登りや沢登りに行きたいところなのですが、こればかりは他力本願でCOVID-19の収束を待つしかありません。