本こ

NHKの少年ドラマシリーズと言えば名作『タイムトラベラー』を皮切りに数々の印象的な作品を世に送り出してきたシリーズですが、その中で話の筋よりも主題歌の一節が妙に記憶の奥底に沈殿している番組がありました。それが、この『とべたら本こ』です。

実際、内容について覚えていることと言えば、荒れた家庭から親に追い出されるように放浪を始めた主人公の少年がどうしたわけか裕福な家庭に迎えられることになり、その最初のトンデモ母親と最後の優しい母親の二役を冨士真奈美さんが演じていたことくらい。少年が、あんな優しそうな人は母ちゃんじゃないと叫ぶ場面もあったような。なにしろ1972年の番組ですから、大半が忘却の彼方です。

音楽の方は、思い立って腰を据えて検索してみたら、腰を据えるまでもなく、金延幸子さんという「日本のジョニ・ミッチェル」的なフォークシンガーの曲であることがわかりました。そこで、金延幸子さんが1998年に久しぶりに(?)出したアルバム『Fork in the Road』を買い求めて、その一曲目に収録されていた「とべたら本こ」を聴いてみたのですが……。

このアルバムに収録するために新たに録音し直したもののようですが、うーん、何かが違うような。しかしネットというのは偉大で、YouTubeの方にオリジナルの「とべたら本こ」をアップしてくれている人がいました。

探していたのは、これです。この番組は四話あって、ここに収録したのは前半二話分のもの。後半二話では歌詞が変わっています。

前)言いたかないんだ嘘つきこつき、本こは言えない男の子。約束破ればまんねんじん。いやならカラスに、羽ちょっと借りて。おためしおためし、とべたら本こ。おためしおためし、とべたら本こ。おっかねえ母ちゃんに教えたろ。

後)泣きたかないんだ弱虫こ虫、本こじゃ泣かない男の子。叱られ泣き真似まんねんじん。いやならひよこに、羽ちょっと借りて。おためしおためし、とべたら本こ。おためしおためし、とべたら本こ。優しい母ちゃんに言ったげよ。

おためしおためし、とべたら本こ。の箇所がずっと心の中に残っていたフレーズでした。ギターの伴奏が、なんとも切ない感じ。

今回読んだ原作を紹介すると、『あばれはっちゃく』シリーズで知られる山中恒氏が書いた同名の児童文学(1960年初版)で、お話の時代設定は昭和33年。横浜の貧乏家庭に育ったカズオという名の11歳の少年が、父親が競馬で大穴を当てたために荒れ放題になってしまった家庭を飛び出し、電車の中で知り合った老婆に誘われるままに田舎暮らしを経験したもののそこも安住の地ではなく、都内のデパートで自殺未遂を起こしたことがきっかけで裕福な家庭に引きとられることになったが……という話で、最初の実の家庭では家庭内暴力やたかり、似非宗教家の登場など身に付かぬ大金が人を狂わせる様子がこれでもかというくらいに描かれますし、二番目の田舎暮らしでも土蔵に住む老婆の偏狭さと母屋に住む当代夫婦の人の良さそうな見掛けの背後に土地売買や生命保険がちらつくなど、子供の目線から徹底的に大人の汚さが暴かれています。

しかも、そうして大人をシニカルに眺め、ときに嘲るカズオ自身も決して素直な子ではなく、嘘つき、嫌がらせ、猫の虐待などに手を染めており、これ本当に児童文学?と驚くほど。著者自身が、初版のあとがきの中で用心深いおかあさんや、先生がたからは、決して喜ばれないと言っているほどに尖った内容です。しかし、それもこれも大人たち(親・学校の先生・警察)が、カズオが必死になって正直な話をしても頭から嘘と決めつけ、突き放すことを繰り返してきたから。

その、いわば「悪い育ち」を強いられ心にも身体にも染み付いてしまったカズオが、最後に口から出任せの名前の偶然の一致から迎えられることになった家庭で身体を張って強盗から義妹を守ることによって、初めて心から温かい「家族」(血はつながっていなくても)の中に溶け込むことになるラストは、ちょっと感動的でした。