胆泥

昨年の鼠径ヘルニア手術に続いて、今度は胆嚢摘出手術を受けました。以下はその顛末です。

2020/11/12

鼠径ヘルニア手術が終わって一カ月近くがたった昨年10月下旬、右背中の内側に何者かにぐっと掴まれるような痛みを感じたため、自宅から徒歩10分ほどの駒場クリニックで受診。最初にレントゲンを撮ってみたところ目立って悪いところはなく、むしろ腸内にやたらにガスがたまっているのが問題なので整腸剤で一週間様子を見ることになったのですが、それではくだんの痛みは治まらなかったので二度目の受診の結果、CTスキャンを撮ることとなりました。そこでの所見は次の通り。

どこを見てもお世辞にも自慢できる内容ではありませんが、今回問題になっている部位についての所見は胆嚢頸部に胆泥が沈殿していますというくだりのようです。これは思い当たるフシあり。胆のう結石の約七割は胆汁内に増えすぎたコレステロールが集まって石になったものだそうですが、私は毎年の健康診断でなぜか悪玉コレステロールの数値だけが高かったのです。

2020/11/20

この所見をもとに駒場クリニックで紹介状を書いてもらって向かった先は、中目黒の東京共済病院です。

担当の医師はCTスキャンの結果と紹介状の内容をもとに「不明な原因により胆嚢の機能が落ちて胆汁が固まり、胆石の手前の胆泥になっている状態。これが痛みの原因と思われるので、治療としては胆嚢をとることになる」と、あたかも手術したくてたまらないという雰囲気で(←個人的な感想です)力強く説明してくれました。

また手術か……と私が暗澹とした表情をしていたところ医師は、まずはMRIで調べて、その上で手術の要否を決めましょうと言ってくれました。

2020/12/04

一週間前のMRCPの結果は、胆嚢・総胆管ともに明瞭な結石はないので緊急で手術をする必要はなし。ただ、このままでは食生活面での制約が強く、サシの入った肉も魚も、洋菓子もダメ。ヨーグルトも低脂肪でなければダメ。それではつまらないですよね(←ここ強調)。俺は節制するのは一向に平気だと手術をしない選択をする人もいるけれど、そうでなければ都合のよい時期に手術をしましょう、という話でした。……先生、やっぱり手術したいんですね?

また手術をするのは本当はイヤなのでちょっと考えてみたものの、私はそこまで鋼の意思を持っていないので節制は無理。よってアイスシーズンが終わる3月末頃に手術をする想定で、次回2月中旬に次回診察の予約を入れて帰ってきました。ただし、痛みの位置が変わる・高熱を出す・尿の色が茶色くなるといったことが起こったら、ただちに診察を受けて下さいとの留保条件付き。

2021/02/19

二カ月ぶりの通院。ここまでの間、日常生活には支障はなく、ただやはり痛みを感じる症状は続いている状態でした。担当の医師から「その後どうでした?」と聞かれてそうした状況を伝え、それではあらためて検査してみましょうという話になるのかな?と思っていたら単刀直入に「手術はいつにします?」。先生、どれだけ手術したいんですか(笑)。

カレンダーと相談して決めた日程は、3月11日に手術前のPCR検査、3月17日に入院して各種チェックの後に18日手術、20日退院というものです。昨年の経験があるので不安は特にないものの、半年のうちに二度も手術を受けることになろうとはどういう巡り合わせなのか。それにしても結局今年はコロナのためにアイスクライミングはほぼできなかった(裏同心ルンゼ滑滝沢の二回だけ)ので、そうなるとわかっていたらもっと早いタイミングで手術を受けておいたのですが……。

2021/03/11

予定通りの入院前PCR検査。検査自体はあっという間に終わりましたが「感染してないことが前提なので、陰性だったら特に連絡しませんから」。そういうものなのか……(もちろん連絡はありませんでした)。

2021/03/17

朝8時半に病院へ。

しかし、入院手続の前にまずしなければならないことがあります。それは最終的なコロナチェックで、採血、胸部CT、PCR検査を終えて結果が出そろった11時前にようやく入院の受付が行われました。


(c) 小沢さとる(本文とは関係ありません。)

与えられた病室は727号室で、四人部屋に先客は二人でした。後からおいおいわかったことですが、一人は放射線治療を受けており、もう一人は「ステロイドが……」「血糖値が……」と言いつつ日がな精力的に院内を巡って運動量を稼いでいました。

さて、自分の方は14時から手術室の隣の部屋まで行って麻酔医から手順の解説を受けましたが、昨年全身麻酔の手術を受けたばかりなので戸惑うことはありません。

ただ、前回と違ったのはお腹の中のものを徹底的に出す努力。15時に看護師さんが病室に来ておへその清掃と剃毛を行うと共にどろりと甘いマグコロールを飲まされ、就寝前にも錠剤の下剤を飲むことを義務付けられました。

シャワーを浴び、夕食を終えて落ち着いているところ19時頃に、明日の執刀医がやってきて力強く「明日は頑張りましょう!」と声をかけてくれました。先生、ありがとうございます。ここまで来たらじたばたしても始まりません。自分も前向きに手術に立ち向かうのみです。

2021/03/18

手術当日。7時に生まれて初めての浣腸を経験しましたが、事前にあれこれ想像しておののいていたのに比べればほとんど違和感なし。ただ「できれば2-3分ガマンして下さい」と言われたもののそこまでは我慢できませんでした。やがて執刀医が顔を出して「昨夜は眠れましたか?私もよく眠りました!」とやる気満々。

ブルーの手術着と白い弾性ストッキングという出立ちに着替え、病棟担当の看護師さんから手術室担当の看護師さんへと私の身柄は引き渡されましたが、どの看護師さんもとても優しく、そして一貫して明るく楽しそう。もしかして、この病院は医師も看護師もみな手術が好きなのか?

今回、麻酔がかかるときに少しばかり抵抗して意識を保とうと試みてみましたが、そうした努力も虚しくあっという間に意識を失い、次の瞬間には手術は終わっていました(実際には2時間弱かかった模様)。病室に戻って、見慣れた光景を見上げながらこの日は一日じっとしているはずだったのですが、検温、血圧と血中酸素濃度の測定を繰り返した後で、15時に看護師さん付き添いで廊下を一周歩いてから「もう大丈夫でしょう」と尿道カテーテルを卒業させてくれたのが嬉しい誤算でした。手術時に入れるかもしれないと言われていたドレーンも使わなかったそうで、おかげでとても身軽になった気分。ここで手術着から自前のパジャマに着替え、あとは点滴の交換を繰り返すばかりです。

2021/03/19

朝一番で採血、そして9時に執刀医が病室を訪れて手術創をチェックした後、明日には退院できると宣言。先生の指導は次のようなものでした。

  • 傷を覆う防水シールを明日貼るので、帰宅後シャワー可。さらに火曜日にはシールをとり、以後は風呂も可。
  • 走る、坂を登るなどするとイテテと痛むことがあると思う。2箇所大きく開き筋肉まで縫合してあるので、痛むことは基本しないこと。なお、埋没縫合をしているので抜糸は不要。
  • 肉、魚は徐々に。お酒は缶ビール程度ならOK。
  • 胆嚢は石まではいってなかったが砂が溜まっていた。悪性でないことを確認中だが、見た目では問題ないと思う。病理検査の結果を4月2日に伝達し、そこで治療終了となる。

この日の昼食から食事再開となりましたが、「お粥」と聞いていたのでよほど質素なものになるのかと思っていたら、写真の通り確かに粥がメインではあるもののそれなりの副菜も添えられていて意外にゴージャスでした。昼食は三分粥、夕食は五分粥。そして翌日からは普通の食事です。

さて、入院期間中スマホ漬けになるのも健全ではないので本(と言っても実際にはKindleアプリを載せたiPad)を持ち込んで読書に勤しんでいたことは既報(『太陽のかけら』『紙つなげ!』)の通りですが、病院の休憩室にも備付けの本やマンガが置かれています。多少痛くても院内を歩き回ることが治りを早くすると言われていたのでトイレに立つたびに点滴をガラガラと引きながら廊下を一周し、その途上で休憩室にも立ち寄りそこにある書籍類を物色したのですが、『JIN-仁-』は医療マンガだからすんなり理解できるとして『闇金ウシジマくん』には違和感を隠せませんでした。どう考えても病院にはそぐわない内容のこのマンガに誰がこれを持ち込んだのかと首を捻りましたが、思い出してみると入院日のCT検査の待合スペースには血糊飛び散る『鬼平犯科帳』(さいとう・たかお版)が置かれていましたから、このあたりのセレクトには大らかなポリシーで臨んでいるようです。

2021/03/20

いよいよ退院。先生、看護師の皆さん、ありがとうございました。

この日は気温も上がり、病院の近くの桜も次々に花を開かせ始めていました。自宅まではタクシーで帰ってもたいした料金にはならない距離ですが、途中で買い物もしたいのでバスで帰路につくことにしました。しかし、さしたる重さではないとは言っても入院用品を収めたバッグを持ち上げるときには手術創が痛み、体幹部に力が入りません。しばらくは恐る恐る様子を見ながら身体を動かすしかなさそうです。

2021/03/23

この日、指示されていた通り絆創膏を除去しました。まだ動きによっては痛みを感じるものの、創は落ち着いており一安心。これからは風呂にも入れます。昨夕から自宅近所の2kmの周回コースウォーキングも開始しており、徐々にかつての日常を取り戻していけそう。

ところで、絆創膏を剥がしたところをよく見ると、その下にはこんなものが貼り付いていました。

これは何なのか?剥がしてもいいものか?……と悩んだときは、切った貼った系看護師の山仲間・あゆみさんに助言を求めるべし。すぐにもらった回答によれば「傷を寄せて留めるテープです。傷をきれいに治すためです。次回外来までそのままでいいと思います」なのだそうです。なるほどね。

それにしても、この下腹部の膨張はどうにかならないものか。もとからここ二カ月ほどの運動不足のせいでこれに近いものはありましたが、それにしても明らかに手術後に膨らみが増しているような気がします。

2021/04/02

病理診断結果を聞きに病院へ。結果は報告書【閲覧注意】にNo evidence of malignancy.とある通り悪性腫瘍は認められませんでした。これはこれでめでたいのですが……。

実は数日前から、一連の治療の端緒となった背中痛が再発していました。そのことを医師に告げたところ、少なくとも内臓には他に問題がないことは確認できたので、考えられるとしたらあとは筋肉・骨。マッサージやストレッチといった「身体に気持ちのよいこと」を重ねながら様子を見て下さいとのこと。まあ、そうなりますよね。

これで一連の治療は終了ですが、せっかく受けた手術が目先の痛みの解決につながらなかったことには少々落胆しました。一昨年の秋に右肩の腱板を部分断裂してから昨年の鼠径ヘルニア、今回の胆嚢摘出、さらに身体のあちこちに小さな不調を抱え、おまけに社会的にも新型コロナウイルスによる行動制限。世の中にはもっと辛い目にあっている人がごまんといるということは理解していても、やはりツイていないと思わないわけにはいきません。これは本当に、お祓いをしてもらうことを考えようかな……と、この日の空のようにどんよりした気分で病院を後にしました。


ところで、手術をするにしても胆嚢の中の石や泥を除去すれば済んだのではないか?という疑問もあるかと思います。しかしこの点に関しては、仮に胆石を除去しても三年再発率50%と非常な高率で再発するので今では胆嚢摘出手術がマスト。胆嚢を取るのは、胆嚢に石があるからではなく、そこで石ができるからである。という言葉があるくらいです。私としても、治療を受けようと考えた症状の原因が胆泥ではなかったにせよ、胆石は胆嚢がんとの間に何らかの因果関係があるらしいことを示す統計もあるようですので、そうなってしまう前に予防的に摘出できたことは前向きに受け止めているところです。