草原

宮本輝の同名小説を原作とする映画『草原の椅子』(成島出監督)を観ました。主演は、佐藤浩市・吉瀬美智子・西村雅彦。

カメラメーカーの中間管理職とカメラショップの社長、それに陶芸店を営む女性が、育児放棄で心を閉ざした4歳の少年を中心に関わり合いながらそれぞれの人生を見つめ直す……というストーリーですが、私がこの映画を観ようと思ったのは、何と言ってもフンザの景色に興味があったから。一昨年シルクロード方面に旅行に行って、中央アジアの乾燥した気候とその地に育まれた文化にいたく心惹かれるものを感じた私。いずれまたあちらに行きたいものと旅行会社のツアーパンフレットなどを眺めているうちに、パキスタン北部の桃源郷フンザからパミール越えしてタクラマカン沙漠に入り、西域南道のホータンやニヤを巡るツアーに興味をそそられました。『風の谷ナウシカ』の「風の谷」にもたとえられる美しいフンザ渓谷はまた、クライマー長谷川恒男氏の終焉の地でもあります。彼は映画の中にも名前の出てくるウルタル(2峰)で雪崩に巻き込まれて不慮の死を遂げ、フンザ渓谷内に埋葬されたのでした。

映画の冒頭と終盤にフンザの光景が出てきますが、確かに美しい!中央アジアらしい潤いの少ない山の裾野を緑の平地に挟まれた川がうねって作り出すダイナミックな景観には目を奪われました。文字通り降るような星空も神々しく、登場人物たちが人生の新たな一歩を踏み出そうとする気持ちになるのも頷けます。やはりこれは、一度は行ってみなくてはならないな、と強く感じました。

肝心の映画の出来ですが、とても良かったと思います。佐藤浩市はさすがの演技でしたし、ゆったりした時間の流れ(139分)の大半を占める日本での人間ドラマも、決して退屈することはありませんでした。ワンシーンだけ出演の若村麻由美さん(佐藤浩市の元妻役)も颯爽としていて、相変わらず綺麗。

ただし、子供の母親役の小池栄子や義父役の中村靖日が憑かれたようなエキセントリックな演技を強いられているのを見ると監督の(原作者の?)この世代に対する冷え冷えとした視線を感じてしまいますし、エンドロールでかかる「主題歌」なるものがGLAYによるロックというのは余韻ぶちこわしで残念でした。もちろん、これはGLAYが悪いわけではなく、映画の作り手の問題。邦画はときどきこうして、木に竹を接いだような音楽を「主題歌」と称して無造作に聞かせますが、これだけはやめて欲しいと思います。余韻を大切にする能楽を生み出した日本の映画なのですから。