西丹

岡澤重男『誰も知らない丹沢』を興味深く読了。

渋谷近辺に住んでいる自分にとって、近郊の山と言えば奥多摩か丹沢(奥武蔵はちょっと遠く感じる)となるのですが、実家が川崎市の小田急線沿線にあることもあってか、どちらかと言うと丹沢の方に親近感を持ち続けてきました。とは言うものの、山行の対象としてはまずは東丹沢の主稜線上の山々、具体的には塔ノ岳を入り口にして丹沢山・蛭ヶ岳・檜洞丸あたりのピークをつないだ尾根歩きに始まり、ついで沢登り。それも最初は表丹沢の水無川流域で経験を積んでから西丹沢の中川川や玄倉川流域へ、そして最後に世附川流域へ足を伸ばすという順番でした。そんなわけで西丹沢の「山」を登るという経験は決して多くなく、なんと2014年の丹沢全山縦走が山歩きとしての西丹沢デビュー。その後2017年の西丹沢周回(及びその前のテスト山行)が続きますが、これらは丹沢という山域の外縁をぐるっと回る歩き方で、西丹沢の内側の山々を歩いているわけではありません。それと言うのも西丹沢には整備された登山道が極端に少なく、篤志家向けのルートばかりとすら言える状態だからですが、むしろその点(付け加えるなら山蛭も少ない)を買って西丹沢に足を向ける登山者の一群がいるようです。

本書はそうした中の一人「S-OK」さんこと岡澤重男氏がご自身のサイト「ようこそ! 山へ!!」に掲載した西丹沢の山行記録のうち10篇を収録したものです。もちろん整備された登山道を歩いている記録も含まれていますが、それだけではなく廃道区間や道としては認識されていない尾根筋を自由に(しかし慎重に検討の上で)歩いているその姿勢には感服しました。中でも、おそらく本書の白眉であり著者自身の思入れが深いであろう山行は「二本杉峠〜千鳥橋〜富士見峠〜織戸峠〜水ノ木(馬印)」です。と言ってもこのあたりの地理と歴史についての知識がないとちんぷんかんぷんだと思いますが、西丹沢に明治時代から昭和中期にかけて存在した林業集落の二大センターである地蔵平と水ノ木を結ぶ古道が通っていたのが、菰釣山の南に伸びる尾根上のピーク大栂から派生する二つの尾根を乗り越すこれら二つの峠で、これらをつなぐということは失われた西丹沢の歴史を辿ることにも通じるわけです。

私自身、産業遺跡・古道との出会いはこれまでにも何度かありました(たとえば大薙沢津室沢)が、それ自体が目的ではなく、たまたま登山や沢登りの目的地にそうした遺構があったというだけのことでした。しかし、この秋に丹沢の山神径路三ヶ瀬古道を歩いてみて、山行そのものよりもそのルートの歴史探訪の方により面白みを感じる経験をした(ためにこれらの山行の記録はむしろ歴史研究の方に力点が置かれた内容になった)ことから、山との新しい付合い方を見つけた気持ちになっています。

クライマーとしてはもう晩年に近づいていることから、いっそのこと余生は丹沢に捧げようかなどと思い始めている昨今ですが(笑)、ただそこまでのめり込めるかどうかはもう一つこれぞというルートを歩いてみての話。その候補として考えているのは上記の富士見峠と織戸峠をつなぐ山行ですが、ただしより歴史的経緯に忠実に、地蔵平からその南西にある尾根に取り付き尾根通しに富士見峠を目指すラインをとるだろうと思います。要研究。