隠蓑

八田進二『「第三者委員会」の欺瞞』を読了。

我が国では、不祥事を起こした企業や行政組織が、外部の専門家(主として弁護士)に委嘱して第三者委員会を組織するという「慣例」が定着しています。その目的は、中立的な第三者に事案の解明にあたらせることでステークホルダーに対する説明責任を果たすことにあり、日本弁護士連合会も「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」を公表してそのベストプラクティスを明らかにしているのですが、本書は、その帯に真相究明どころか追及からの隠れ蓑!?とあるように、これまで公表されてきた第三者委員会報告書のいくつかを取り上げてそれらがステークホルダーの期待に応え得ていないことを指摘しています。

筆者はさらに第三者委員会方式の成り立ちを振り返り、今やそれが不祥事企業にとっては禊の道具に、受託する弁護士にとってはビジネスになっている実態を明らかにした上で、「第三者」に求められる倫理、医院専任における社外役員の関与、報酬開示、そもそも自浄能力の発揮の可能性を模索すべきこと、そして委員会には会計士を含めるべきことを提言しています。筆者が本書で述べたかったのはこの提言の部分なのだろうと思うのですが、読者の立場からはやはり舌鋒鋭く各報告書に切り込むところに目が向きます。

筆者が批評の対象とした事案は全部で九つ。そのそれぞれにどのような問題があったかは、各事案に記されている刺激的な一言コメントを見れば自ずと理解されます。

厚生労働省「特別監査委員会」(毎月勤労統計調査をめぐる不適切な取扱い)
第三者委員会を「詐称」し、官僚の責任逃れに手を貸した
レオパレス21「外部調査委員会」(施工不備)
会社の都合に従属し、真因には迫れず
日本大学「第三者委員会」(アメリカンフットボール危険タックル)
「誰に何を聞いたのか」さえ不明の欠陥文書
東京医科大学「第三者委員会」(女子・多浪受験生差別)
「女子、多浪受験生差別」の実態は明らかになるも、「なぜ起こったのか」には迫れず
神戸製鋼所「外部調査委員会」(品質偽装)
報告書を公表せず。それやったらオシマイの「反面教師」
東芝「第三者委員会」(不正会計)
東芝の東芝による東芝のための「不適切な」報告書
東洋ゴム工業「『免震積層ゴムの認定不適合』に関する社外調査チーム」
経営責任曖昧なまま「再発防止策」を提言も、新たな不正が発覚
朝日新聞社「第三者委員会」(慰安婦報道)
慰安婦報道をめぐり、各自が「ジャーナリズム論」をぶつけ合う場に……
日本オリンピック委員会「調査チーム」(東京誘致過程での贈賄疑惑)
疑惑に手付かず。なのに「身の潔白」にお墨付き

いずれも独立性・専門性不備で事象を把握しきれていない、スコープ過少、トップの責任に踏み込めていない、といった不備から真因に到達できておらず、よって再発防止策も不明確だとコテンパン。淀みのないその叙述にはある種の爽快感を覚える一方、ここまで容赦のない批判にさらされるとわかっていたら委員のなり手がなくなるのではないかと心配になるくらいでした。

ただし、本書で取り上げられた事案はいずれも筆者が参画している「第三者委員会報告書格付け委員会」が評価の俎上に乗せたものから選ばれていますが、これまた容赦のない「格付け委員会」の通信簿において例外的に高い評価を得た雪印種苗(種苗法違反)を最後の事例として取り上げ、その好評価の理由を解説しているのがバランスのとれている点です。

企業不祥事とまではいかなくても、日常遭遇する各種問題事象の振返りを行う際の分析枠組みとして上記「格付け委員会」の評価ポイントはとても参考になりましたし、それ以上に職業として不正調査に当たる者に求められる覚悟のようなものを再認識したという点で、価値ある一冊でした。