運命
2021/03/08
4月にN響でベートーヴェンの交響曲第5番を聴くことになっているので、予習をすることにしました。当然さまざまな指揮者・さまざまなオーケストラの「運命」が選択可能なのですが、購入したCDは1947年5月27日、ベルリンのティタニア・パラストにおけるライヴ・レコーディング録音です。指揮はヴィルヘルム・フルトヴェングラー、オーケストラはベルリン・フィルハーモニー管弦楽団。第二次世界大戦のときにドイツにとどまったことからナチへの協力者とみなされて連合国から戦後の演奏を禁じられていたフルトヴェングラーが、実際にはナチ当局の文化政策に反抗していたことやユダヤ系演奏家の国外脱出を支援していたことが証言されて演奏禁止が解除され、ようやく指揮台に立った歴史的復帰演奏会の3日目の演奏の録音です。当日の演奏プログラムは「エグモント」序曲、交響曲第6番「田園」、交響曲第5番「運命」というオール・ベートーヴェン・プログラムでしたが、このCDには「運命」と「エグモント」が収録されています。
「歴史的名演」と言われるこの演奏。繰り返される運命の動機は重厚に聞かせ、その他の旋律は音量・テンポをダイナミックに変化させながらぐんぐん曲を進展させて第4楽章の圧倒的な高揚へ。クライマックスのアッチェレランドではフルトヴェングラーの神がかったタクトに導かれるオーケストラも渾身の全力疾走で、ティンパニ連打の轟音の中、最後には金管が追随しきれず音を外してしまう瞬間もばっちり記録されています。
聴衆の拍手は入っていませんが、敗戦後の困窮の中で能う限りの努力を重ねてチケットを手に入れたベルリン市民がこの演奏に熱狂したであろうことは想像に難くありません。そしてこれを聴いた瞬間、私が高校生のときに同級生のA君から借りて聴き込んでいた(つまり自分の中で「運命」の基準となっている)レコードはこの演奏であったことをはっきりと理解しました。ほぼ45年ぶりの再会というわけです。