林檎
2000/11/10
ウォール・ストリート・ジャーナルの記者としてアップルの歴史を見つめ続けたジム・カールトンが描く、アップルとマッキントッシュの興亡史『アップル』(山崎理仁訳)を、1カ月程かけて読了しました。本書の主役は、アップル創業者にしてシリコン・バレーのカリスマであるスティーブ・ジョブズ、そのジョブズに招かれてアップルに入りながらジョブズを追放しアップルを急成長させたものの10年後に自らもCEOの座を追われるジョン・スカリー、マッキントッシュ至上主義の権化ジャン=ルイ・ガセー、アップルの混迷を決定的にしたマイケル・スピンドラーとギルバート・アメリオら、キラ星のごとき(そしてそのことごとくが墜ちた星となってしまった)アップルの経営陣です。
ここには、1985年にビル・ゲイツがスカリーとガセーに送った歴史的メモ「マック・テクノロジーのライセンス供与について」、マックOSをインテルのチップ上で動かす「スター・トレック・プロジェクト」(素晴らしいプロトタイプまで完成していながらパワーPC対応を優先するためこのプロジェクトは葬られました)、カーネルをもたないマックOSに代わってマッキントッシュにメモリー保護とマルチ・タスキング機能を与えるための泥沼のような新OS開発作業(ピンク、タリジェント、コープランドなどなど)、アップルによるサン・マイクロシステムズ買収の動き(10年後には逆にサンによるアップル買収が仕掛けられます)、悲劇のPDAニュートンの誕生と死、アップル・IBM合併交渉(ほぼ実現寸前までいきました)、スティーブ・ジョブズの華麗な復権などが描かれます。
そしてアップルの失敗は、「世界を変える」ことを大義とし、技術(と粗利)に徹底的に執着した頑迷な経営陣と技術陣が、ライセンス政策をとらずに孤立し、マイクロソフトやインテルとの協調の芽を自らつぶし、膨大な研究開発投資を実りのないOS開発につぎこんでいるうちに、後方からひたひたと近づいてきたWindowsに対する技術的優位とマーケットでのシェアをほとんど失っていく過程としてとらえられています。
本書の終章は、スティーブ・ジョブズがアップルに復帰し、iMacをリリースしようとする場面で終わっています。著者はアップルの未来に極めて懐疑的ですが、しかし、カリフォルニア州クパティーノを舞台とする「世界を変えた天才たち」の栄光と失敗の物語は、本書で700ページを費やしていても、まだ真の終わりを迎えていないように思われます。