塾長の備忘録

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私=juqchoの日常の雑感を不定期に綴る、個人的な備忘録。

牧場

2001/06/23

5月27日の夜、いつものように西田ひかるさん♪が司会のNHK『青春のポップス』を見た後、しばらくテレビをつけっぱなしにしていたところ、「NHKアーカイブ」という過去の名作を解説つきで再放送する番組に凄く懐かしいドラマが登場しました。1981年に少年ドラマとして放映された『星の牧場』です。

この物語の時代設定は昭和30年頃で、ある日牧場にふらりと現れた記憶喪失の青年モミイチが、山奥のジプシー達との音楽を通じた交流の中で、戦争によって失われた過去を探し出していくというお話。20年前に見てその美しい自然の映像と音楽に感動し、以来ず〜っと「もう一度見たい」と思っていたドラマでした。念願かなって改めて見てみても、やはり別役実の脚本が素晴らしく、また準主役である不思議な雰囲気をもった少女役の千住真理子さん(ヴァイオリニスト)も魅力的でした。そして何よりまったく色あせることのない自然の美しい景色は、日光の霧降高原などで撮影されたことがわかり、納得。劇中にモミイチがジプシーとの再会のために山に入るシーンがあり、そこにきれいな笹に覆われた見事な尾根道が出てきたのですが、これはおそらくキスゲ平から赤薙山へ向かう尾根でしょう。ほかにも随所に美しい広葉樹林の景色が映し出され、新緑の日光を訪れてみたくなりました。

ところでこのドラマには原作があり、早速取り寄せることにしました。手元に届くまでの間にいろいろ検索してみると、庄野英二が1963年に書いたこの『星の牧場』は児童文学としては比較的メジャーな本で、多くのホームページ・オーナーがお気に入りの1冊にこの本を上げていることがわかりました。

さて、この原作を読んでみるとテレビでの筋書きとはいろいろと異なっています。もちろん基本的な筋立ては一緒で、主人公はかつて南方戦線で負傷したために記憶の一部を失ったモミイチであり、彼が働く牧場はこちらの世界、愛馬ツキスミの蹄の音の幻聴に導かれるようにして辿り着いたジプシーたちの暮らす山はあちらの世界という二元構造も共通なのですが、別役実の脚本ではモミイチの自分探しの旅に力点が置かれています。そして、ジプシーたちとの邂逅によって徐々に記憶を取り戻したモミイチが、ついにツキスミの乗った船が魚雷によって沈められた事実に突き当たったときにジプシーたちの世界から離れなければならなくなり、満月の夜、空の向こうからかすかに聞こえてくるオーケストラに彼は牧場から鈴を振って参加するという寂しくほろ苦いエンディング。これに対して原作では、ジプシーたちのところから戻ってきたモミイチは彼を心の病と心配する牧場の主人たちに引き止められたためにジプシーのバザールに参加する約束を果たせなかったものの、最後は山の上の星降る花野でジプシーたちのオーケストラやツキスミと夢の中での再会を果たす幻想的なシーンで終わります。

どんどん心が純化していったモミイチに最後はこの上もなく美しいハッピーエンドを与えた庄野英二の原作に対して、別役実の脚本はなぜモミイチについに現実の世界にとどまることを選ばせたのか、不思議は尽きません。

NHK版『星の牧場』は、2005年にDVD化されて販売されました。これは今でも手に入れることが可能です。〔2016/10/08追記〕

  • 放送日時
    • 1981年11月2日,3日(全2回)18時00分〜40分(NHK総合)
  • スタッフ
    • 原作:庄野英二
    • 脚本:別役実
    • 音楽:林光
    • 制作:黛叶
    • 演出:佐藤和哉
  • キャスト
    • モミイチ:福田勝洋
    • 牧場の人々:川津祐介、高田敏江、千住真理子、千住明、大塚弘 、岸部一徳ほか
    • 語り:千住真理子