破壊
2001/10/28
ハーバード・ビジネス・スクール教授のクレイトン・M・クリステンセンのベストセラー『イノベーションのジレンマ』を読みました。
この著作で著者は、「偉大な企業は全てを正しく行うが故に失敗する」という極めて逆説的なテーマからスタートし、「破壊的イノベーション」(disruptive innovation)という概念を導入しつつ、ディスク・ドライブ業界、掘削機業界、鉄鋼業界などにおける先行優良企業が、顧客の声を正しく聞き、利益を極大化させるための正しいマネジメントを行ったがために、やがて後発技術による下位市場からの攻撃に破れ去っていく様子をビビッドに描いています。
優良企業のマネージャーであれば、顧客が求めている既存技術により磨きをかけ、現行製品(例えば5.25インチ・ドライブ)の価格性能比を高める持続的イノベーションに経営資源を集中するのが普通。一方、破壊的技術(例えば3.5インチ・ドライブ)には、単純、低価格、低性能(例えば記録容量の少なさ)、そして低利益率という特徴があり、大企業にとって重要な顧客は通常そのような製品を欲していないという現実があります。このため、最初は破壊的技術による製品は既存の顧客以外の新たな市場を開拓することを余儀なくされるものの、そのような市場では大企業の成長ニーズを満足させることはできないばかりか、大企業が既存技術や既存顧客との間に培ってきた組織の能力(プロセスと価値基準)にはフィットしません。ところが、破壊的技術の進歩のペースが顧客が求める性能向上のペースを上回っていると、両者のグラフが交わる時点から顧客の選択基準は性能から信頼性、利便性、そして価格へと移行をはじめ、その結果破壊的技術が主流市場で十分な競争力を持つようになり、既存技術が支配してきた市場を侵食します。
こうした破壊的技術の性格に着目した著者は、経営者に対して、破壊的技術の開発を、そのような技術を必要とする顧客がいる独立した小規模の組織に任せ、最初から短期的な躍進を期待した大規模な投資を行うのではなく初期は学習機会ととらえて取り組むことを勧めています。
この著作が面白いと感じられたのは、ここで描かれている事象や分析の多くをそのまま私の今の勤務先での経営判断に当てはめて評価することができるからです。例えば、我々が主要プロダクトとして販売してきたハイエンド・セキュリティ製品の性能面での優位性が、果たして商品力としての比較優位をどれだけ維持できているのか、あるいは新規事業として取り組もうとしているシステム・マネジメント・サービス部門に対し、どれだけのリソースを投入しどれだけのリターンを短期的に期待すべきなのか。この著作の記述と照らし合わせてみて、思わず腕組みをして考えこまざるを得ませんでした。