気候

2002/06/30

『歴史を変えた気候大変動』(ブライアン・フェイガン著 / 東郷えりか・桃井緑美子訳)は、主としてヨーロッパ世界を中心に、気候の変動が人間社会やその歴史に与えたインパクトを解説した面白い本でした。

気候変動の要因にはさまざまなものがあり、それは例えば北大西洋の高気圧と低気圧の間の気圧振動であったり、海洋大循環、火山の噴火、太陽活動の変化であったりします。そうした中で、西暦900年頃から1200年頃までの中世温暖期には古代スカンディナビア人たちは主としてタラの漁場を求めるために北方の海に乗り出し、グリーンランドに定着したり北アメリカに到達したりしていますが、13世紀から19世紀まで続く小氷河時代(本書の原題=”The Little Ice Age”)には、ヨーロッパではしばしば厳しい飢饉に見舞われます。これに対してヨーロッパ人は、遠洋航海を可能にする造船技術や三圃農法と農地の集約といった対応を編み出していきますが、一方で、そうした技術革新の恩恵を受けなかったフランスでは革命前の天候不順による凶作の連続の中で社会的緊張が高まっていったさまが描き出され、そして、19世紀初頭の寒冷気候がアイルランドのジャガイモ伝染病の引き金となり、英国政府の無策もあって100万人もの人間が餓死・病死する大飢饉へとつながっていく様子が述べられます。

筆者は実に慎重に、こうした環境要因が歴史を決定づけたとする立場を退けていますが、それでも過去1000年間に起こった気候変動にヨーロッパ人がどのように対応してきたか、そしてそのことが西欧社会の歴史にどのような影響を与えたかについて多彩な事例をひいて詳述しており、そのいずれもが興味深いものでした。そしてその筆者も、最近の人類の活動が生み出しつつある温暖化の時代に対しては不安の念を隠そうとしません。なぜなら、現代の気候は過去1000年の気候の推移の延長線上にはない未知の領域に入りつつあり、それにもかかわらず過去1000年の気候の教訓は、気候の変動は緩やかにではなく突如として起こり、そしてその影響力は人類の歴史を左右するほど大きいということだからです。