心配

2006/03/20

夕方、携帯に電話が入りました。我らがクライミング仲間U氏の奥様からで、「阿弥陀岳で遭難死があったと聞いたのですが、夫は誰と山に入っているのでしょうか?」との心配そうな声。彼は、この飛び石連休を年休でつないで赤岳東稜から阿弥陀岳南稜へと抜けるプランを立て、下界の連絡先に私の携帯を指定していたのです。私はそのとき遭難事故のニュースに接しておらず、たぶん昔あったのと同じ雪崩事故がまたあったのだろうと即断して「今回彼は単独ですが、ルートからすると阿弥陀岳付近は稜線通しで雪崩の心配もないし、彼の力量なら『易しすぎるんじゃないの?』と言ったぐらいですから、大丈夫ですよ」と答えて奥様に安心していただきました。

しかし、遅い時刻になってようやく上記のニュースを読むことができて顔が青ざめました。阿弥陀岳で遭難したのはまだ40代のヒマラヤ経験もあるリーダーに率いられた3人組のクライマーで、いずれも山歴20年以上のベテラン。そのうえ装備も万全だったというのに、

現場付近は20日朝、風速17〜18メートルの突風が吹き荒れ、……近くの赤岳山頂(2899メートル)付近の山小屋では同日未明、最低気温氷点下19度を記録した。

という悪天候につかまって凍死したのだそうです。

冬山での暴風の猛威は、経験した者にしかわかりません。本当に、物理的な実体をもって風がぶつかってきて、耐風姿勢をとっていてもザックごと身体を持っていこうとします。そのため、歩行はおろか、その場にとどまろうとするだけでも大変なエネルギーを消耗します。計画通りなら、20日朝のU氏は幕営地の大門沢二俣から行動を開始し、東稜を抜けて竜頭峰から赤岳に登ろうとしているところのはずですが、この辺りは基本的に西風ですから東稜にいる間はそれほど風の影響を受けないはず。あとはなんとか赤岳山頂に辿り着いて、頂上小屋に退避してくれていればいいのですが。視界が悪くなければ、東稜の終了点から真教寺尾根を下ってくれていてもOK。

今回ほど真剣に、仲間の無事を祈ったことはありません。頼むから生きて還ってきてくれよ!(←翌日、無事が確認されました。ヤレヤレ)