起用

2007/02/05

思うところあって、Downes-Payne体制のAsiaが2001年にリリースした『Aura』を聴いてみました。

オマル・ハイヤームの「ルバイヤート」に題材をとりThe journey will be over, Awake!と歌い上げる冒頭の「Awake」は本当に素晴らしい!ゆったりしたリズムに乗った輝かしいシンセアルペジオの後ろで空間系の全音符が作るコードの流れが優しく、このイントロだけで十分に惹き付けられます。『Aqua』を聴いたときにも感じたことですが、Geoff DownesのKORGシンセサイザーを使った音づくりの美しさはJohn Wetton時代とは明らかに一線を画しています。そしてJohn Payneのボーカルが入ってくるとシンセの白玉と控え目だが効果的なリズムギターが絶妙に絡み、中間部の穏やかなシンセソロでは最初の上行する三音にピアノをもってきて場面転換を印象づける巧みなアレンジも見せて、Downesの音楽センスを存分に認識させてくれます。

このアルバムは参加ミュージシャンも素晴らしく、DownesとPayne以外のパートは曲ごとに異なっており、たとえばギタリストではSteve Howe 、Elliot Randall、Pat Thrall、Ian Crichton (Saga!)、Guthrie Govan。ベースでは一曲だけですがあのTony Levin。ドラムもSimon Phillips やVinnie Colaiuta、Michael Sturgis、パーカッションにLuis Jardimといったラインナップ。こうしたメンバーが惜しげもなく投入されて、実に見事な大人のロックを展開しています。

……ん?「大人のロック」ということは、AOR?もしかして『Aura』ではなくて『AORa』だったか?

いや実際のところ、冒頭の「Awake」こそ興奮したのですが、以下全編を通じて大変落ち着いた演奏が展開し、John Payneの思い入れたっぷりの歌い方もまさにAORシンガーのそれ。凄腕のミュージシャンがインタープレイで火花を散らすスリリングな展開、といったものとは無縁の世界です。もちろんそれぞれのゲストは持ち場でさすがのプレイをしており、たとえば三曲目「The Last Time」でのVinnie Colaiutaのドラミングは一聴の価値があるし、Steve HoweとIan Crichtonとがそれぞれの個性を発揮しているのも聞き逃せません。ただし「Ready to Go Home」などを聴くと、確かに朗々とした素晴らしいバラードだとは思うものの、そこにTony Levinを起用する必然性は感じられませんでした。同じバラードなら七曲目「On the Coldest Day In Hell」の胸を締め付けられるようなアレンジの方がよく(ベースはPayne自身)、歌詞もJohn Wettonのソロに出てきそうな内容ですが、Payneのボーカルの方がはるかに味わい深いものがあります。ロックテイストという点ではSimon Phillipsの激しいドラミングの上でSteve Howe 、Pat Thrall、Ian Crichtonの3人のギタリストが競演する「Free」が聴きどころになるはずですが、残念ながら8分を超える曲の長さのわりに持ち込まれているアイデアが少なく単調な印象を受けました。これがYesだったら、たった三つのモチーフで20分くらいの曲に仕立てることだって雑作もなかったでしょうに。

などなどネガティブなことも書いてきましたが、Asiaというバンド名が引きずる大艦巨砲主義的呪縛を離れて素直に向き合って聴けば、全体としてはとても安心感のあるアルバムだと思います。それにしても、これだけのミュージシャンを集め、ジャケットのイラストにはRoger Deanを起用しているのですから、相当な制作費がかかっているはず。このアルバムのセールスはどうだったのだろうか?と今さらながら心配にもなってしまいました。

ジャケットと言えば、本来のデザインは冒頭に掲げた明るい色のものなのですが、Amazonから送られてきたCDのそれは右の暗〜いブルー。この色遣いでは絶対買う気になれないので色違いのバリエーションというより印刷工程でのミスプリンティングだと思いますが、マーケットプレイスではなく普通に買ったつもりなのにこういうのが送られてきたのが不思議です。

Amazonよ、なぜだ?