塾長の備忘録

塾長の備忘録

私=juqchoの日常の雑感を不定期に綴る、個人的な備忘録。

連想

2009/09/01

生卵が苦手だ。卵かけご飯など、神聖なる白米に対する冒瀆だと思う……と言うと、卵かけご飯大好きガール(?)のうっちゃまん女史と人としての尊厳を賭けた言い争いになり、ついには互いに「こいつとだけは一緒になれん」と言う結論に達するのですが(←若干脚色あり)、それはさておき、生卵が苦手なように半熟卵も私は苦手。モーニングセットに黄身がとろとろの目玉焼きが出てこようものなら、「手を抜くんじゃない!きちんと最後まで火を通さないか!」と厨房に怒鳴り込みたくなります(←同上)。

なぜこんな話をしているかというと、今日(9月1日)が二百十日で、そういえば夏目漱石の『二百十日』の中に、主人公が半熟卵を注文したら4個の卵のうち2個が生で2個が固ゆでで出てきたというくだりがあったことを脈絡なく思い出したから。そして二百十日と言えば台風の特異日ということになっていて、一日ずれはしたものの、昨日は東京も久しぶりに台風の影響で荒れ模様の天気でした。それでも帰宅する頃にはすっかり雨もおさまって、さしたる影響もないままに嵐は北へと去っていった模様。昨年は雷とゲリラ豪雨に痛めつけられた荒っぽい夏でしたが、今年は梅雨が長引いたせいかいつの間にやら夏が終わろうとしている、という印象です。

© 2009 Weathernews

……連想は続きます。

「嵐」といえば、英語ではtempestですが、ちょうど今月、国立劇場で上演される文楽公演の第三部がシェイクスピアの『テンペスト』を翻案した『天変斯止嵐后晴てんぺすとあらしのちはれ』で、これを卵かけご飯が好きな某女子と観に行くことになっているので、原作を予習中。

題名の由来は、この作品の冒頭で主人公のミラノ大公プロスペローが魔術を用いて嵐を起こし、自分の地位を簒奪した弟たちの乗る船を難破させる場面からとられたものでしょう。文楽でそうした激しい幕開けが再現されるのか?そして最後に、原作の気の利いたエピローグを文楽の太夫が語って聴かせるのか?などなど、今から興味津々。

……連想はさらに続きます。ここからは音楽の話。

U.K.を離れたBill Brufordが自分の名前を冠したバンド=Brufordを立ち上げて発表した第一作『One of a Kind』(1979年)の中に「Forever Until Sunday」という美しい曲があります。前半、Brufordの繊細なブラシワークに乗って穏やかなヴァイオリンのソロが流れ、中間部でリズムセクションがインテンポになって曲を覚醒させてから、緊迫したシンセリフとピアノ連打に続いてAllan Holdsworthの流麗なギターソロになだれ込むというスリリングな展開。このアルバムの中でも最も好きな曲の一つです。

ところがこのアルバムには誰がヴァイオリンを弾いているかのクレジットがなかったために、当時の解説などではAllan Holdsworthがヴァイオリンも弾いた、という紹介の仕方をされたのですが、実はこれはEddie Jobsonによる演奏です。その頃ある音楽雑誌で目にしたEddie Jobsonのインタビュー記事に彼が「Brufordのアルバムにノークレジットで参加した」と発言しているのを見つけていたので、このこと自体はかなり早い段階から知っていたのですが、もともと「Forever Until Sunday」がU.K.時代に作曲されたものでU.K.のライブでも演奏されていたということを知ったのは、ずいぶん後のことでした。その頃の音源も聴いたことがありますが、やっぱりEddie、最初のヴァイオリンソロを途中で歪み系に持ち込んで「この曲はオレのための曲だぜ」感ありあり。

で、なぜAllan Holdsworthがヴァイオリンを弾いていると思われたのかというのが本題なのですが、それは、実際に彼がヴァイオリンを弾いている曲があるからです。それがこちら、Jon Hiseman's Tempestの『Tempest』(1973年)収録「Upon Tomorrow」です。アルバム全体としてはプログレッシヴというより良質のハードロックという感じで、Allan Holdsworthのギターも速いことは速いものの、後に彼のトレードマークとなる超レガートな奏法は聴かれずピッキングのはっきりしたものですが、その彼が「Upon Tomorrow」の冒頭1分余りにわたって聴かせるジャジーなヴァイオリンはそこそこ聴きごたえがあって、テイストとしても「Forever Until Sunday」に通じるものがある、と思い込めばそう聴けなくもありません。

ここまできたら興に乗ってもう1枚、「Allan Holdsworthとヴァイオリン」というお題で紹介しておきたいのは、フランスのジャズ / フュージョン・ヴァイオリニストJean-Luc Pontyの『Enigmatic Ocean』(1977年)です。このアルバムは、本当に素晴らしい。全編インストゥルメンタルのフュージョンサウンドですが、叙情的な美しいメロディをしっとり聴かせる曲(「Mirage」など)もあれば、メンバー全員の高い技巧をこれでもかと見せつける疾走系の曲(「Enigmatic Ocean, Part II」など)もあり、それらが全体で一つにまとまった見事な作品です。そして、このアルバムで彼らしい華麗なフレージングを聴かせているAllan Holdsworthとまるで遜色なく渡り合っているもう1人のギタリストが、後にGenesisの不動のツアーサポートメンバーとなるDaryl Stuermerであり、彼らを背後で支える細やかでタイトなドラミングを聴かせてくれているのが、意外にも2年後にJourneyに加入することになるSteve Smithというのも、面白い点です。

……といったところで、台風の置き土産のような風に流され続けた連想の旅は、おしまいです。