法則
2010/09/07
私にとってのアイドルというと、この人も挙げられます。そう、アップルのスティーブ・ジョブズです。
彼のプレゼンテーションの素晴らしさは有名で、その「現実歪曲フィールド」は商品紹介を芸術の域にまで高めたと言われるほどに説得力のあるもの。そのいくつかはYouTubeで見ることができますが、たとえばこれなども有名なプレゼンの一つです。
iPhoneを発表したMacworld 2007でのプレゼンテーションの中で、ジョブズは「アップルは電話を再発明する」と高らかに宣言して見せています。自信とユーモアに満ちた語り口で聴衆の期待を極限まで高め、その期待のさらに上をゆく製品を満を持して発表するジョブズのプレゼンには、誰もが夢中になるはず。
『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則』(カーマイン・ガロ)は、そのプレゼンテーションの魅力の秘密を解き明かす本。目次の引き写しになってしまいますが、ここに記されている18の法則とは、次の通りです。
- ストーリーを作る
- 構想はアナログでまとめる
- 一番大事な問いに答える
- 救世主的な目的意識を持つ
- ツイッターのようなヘッドラインを作る
- ロードマップを描く
- 敵役を導入する
- 正義の味方を登場させる
- 体験を提供する
- 禅の心で伝える
- 数字をドレスアップする
- 「びっくりするほどキレがいい」言葉を使う
- ステージを共有する
- 小道具を上手に使う
- 「うっそー!」な瞬間を演出する
- 仕上げと練習を行う
- 存在感の出し方を身につける
- 簡単そうに見せる
- 目的に合った服装をする
- 台本を捨てる
- 楽しむ
この中には、たとえば70文字以内でヘッドラインを作れ、3点ルールで流れを構成せよ、箇条書きは使うな、などといった具体的なハウツーの要素も含まれており、上で見たiPhoneの発表にも、本書で整理されたテクニックがいくつも見てとれます。本書の中においても、実際のジョブズのさまざまなプレゼンテーションのポイントとなる部分を紙面に引用・分析しながらそれらのテクニックの効果を検証した上で、各章ごとに「ディレクターズ・ノート」としてエッセンスをまとめるという非常に実践的な構成がとられています。
それはそれで役に立つのですが、この本を読んで最も感銘を受ける点は、やはりスティーブ・ジョブズという人が「救世主的な目的意識」を持って情熱的にアップルでの仕事に取り組んでいること、そしてプレゼンテーションの準備段階における膨大な練習にもまた、その情熱が向けられていることでしょう。かつて、ペプシコ社長だったジョン・スカリーをアップルのCEOに引き抜くために彼が言ったDo you want to spend the rest of your life selling sugared water or do you want a chance to change the world?
という言葉も有名ですが、その「世界を変える」という使命感があってこその、あのプレゼンなのです。
アップルの製品を一つでも使っているなら、その作り手の姿に触れるちょっと変わった手段として、この本を読んでみるのもよさそうです。