雪崩

2011/12/06

雨の夜、美しいイルミネーションを横目にそそくさと東池袋へ。 この日は日本雪崩ネットワーク(JAN)主催の「アバランチナイト」に参加しました。

予備知識のない人のために説明しておくと、これはJANが全国を巡回して開催している山岳ユーザーのための雪崩安全セミナーで、雪崩リスクの軽減に興味ある人なら誰でも無料で参加できます。ただし、無料であるだけに各回大変な人気で、募集が始まるとあっという間に応募枠は満杯。この日も、定員100名の会場がぎっしり満員でした。

内容は、JANのサイトの説明によれば次のとおり。

  1. 雪崩について:雪崩についての基礎的な話です。雪崩とはどのようなもので、どのような視点でそのリスクを考えればいいのかなどです。山岳での経験が浅い方に向けたお話になります。
  2. 雪崩死亡事故の概要:過去10年間の死亡事故の概要と、昨シーズン現場調査を実施した国見岳、小日向山、足拍子岳、白馬大雪渓での事故についての報告です。
  3. 雪崩情報について:今シーズン開始するJAN雪崩情報について、その内容理解を進めて頂くためのセクションです。JAN雪崩情報とはどのようなもので、山岳ユーザーはそれをどのように利用すればいいのかなど、その全体像について、欧米の事情などを織り交ぜながら概略します。

上記の3点のうち、前半は最初の「雪崩について」、休憩をはさんで後半は「雪崩死亡事故の概要」と「雪崩情報について」。特に前半が、参考になりました。手元のメモをもとに、前半部分の内容のあらましを順不同で再現するとこんな感じです。なお、下記の記述の大半は、JANのサイトの「knowledge」のページで見ることもできます。

  • 雪崩遭難による死因の65%が窒息、25%が外傷、10%が低体温・ショック。
  • 雪崩に遭わないことがまず大事だが、もし遭ってしまったら「サバイバル」→「セルフレスキュー」→「組織的救助」。埋まってしまった場合の生存限界時間は、10分。適切な性能のビーコンがあれば5分で見つけることもできるが、なければ100m四方をプローブで探すのに4時間かかる。その結果「組織的救助」は往々にして「遺体捜索」になってしまう。
  • 雪崩の危険トライアングルは「雪崩地形」「不安定な積雪」「人と施設」。
    • 雪崩が起きやすい斜度は38度あたり。遠目でも、影の出来具合で雪の蓄積度合いは見えてくる。地形、風の影響、植生などから危険を察知すること。
    • どのような種類の不安定性が、どのような場所に存在していて、どの程度の刺激に対してアクティブなのか、それを継続的に考えていく。真新しい雪崩の跡や歩いているときのワッフ音などは、自然が「今日は不安定ですよ」と教えてくれている。積雪データや気象データも考察の材料になる。特に強い気象現象は、不安定化の原因となる。
    • 人はミスをする。良い習慣を身につけ、原則的行動様式を守ること。事実・根拠に基づいて判断すること。ベテランが、いつもの場所に行くのだからと油断してビーコンを持参しなかったために、致命的結果となった事例もある。
  • 「Think SNOW」。
    • あなたは、今、どこにいますか?
    • 大丈夫と判断した理由は何ですか?
    • もし雪崩れたら何が起こりますか?
    • 他に選択肢はありますか?

たとえば後半で解説された国見岳の事故事例は、数日前の放射冷却で斜面ががちがちになった後に吹雪で大量の雪が乗った状態で発生したものですが、「強い気象現象」の直後に「雪崩地形」の中を登る以外の選択肢はなかったのだろうか?と解説されており、前半の説明が後半の事故事例解説ときちんとつながっていて、大変ロジカルでわかりやすいものでした。また、いくつもの動画がその場で再生されて、迫力満点。

  • 雪面に一瞬のうちにクラックが走ってスラブが落ちる面雪崩となる動画。一つは横へ逃げることができたが、もう一つは雪に巻き込まれて脱出できない。ちなみに雪の重さは、1立方mで250kgほどもあるそう。まして、バインディングから足が外れなかったとしたら……。
  • 雪崩に巻き込まれて斜面の岩に激突し、そのままなすすべもなく落ちてゆくボーダー。
  • 雪崩の発生を察知し、素早く横へ逃げたボーダー。うまい!しかし、その姿を下から撮影していたもう1人のボーダーは退避できずに落ちてきた雪崩に巻き込まれて、画面はぐちゃぐちゃに。
  • 風にあおられて安易に急斜面に近づき、次の瞬間雪崩もろとも滑落。雪煙にその姿が消えたとき、撮影者たちからあがる悲鳴。

会場には総帥も来ていたのですが、休憩時間に総帥と交わした会話。

総「ボーダーの方がよっぽど山やってますね」
私「私ら、あんなところ近づきもしませんもんね。恐ろしい……」

皆さんも、これからの雪山シーズンを安全に楽しまれますように。