夜々

2012/06/30

渋谷のDJバーEdgeEndで、DJイベント「プログレナイト "Night After Night"」。2008年に二度同種企画でイベントを催したことがありますが、今回はそれからなんと4年ぶりです。 実は、このイベントをやろう!ということは、正月にFacebook上で今年の抱負として意思表明していました。

新年おめでとうございます。今年も、昨年同様クライミングをメインに、ときどき観能、夏には旅行といった感じで過ごしていくつもりです。できれば久しぶりにプログレDJイベントもやりたいかな。

さらに今年は、オリジナルメンバーによるU.K.来日があったことも大きな推進力になりました。彼らの来日は6月中旬。それならその前に、U.K.にまつわる曲を集中的に紹介するイベントを開催しようと前2回と同じrobin☆さん、Hatchさんに声を掛け快諾をいただいて、次にこの手のイベント会場としておなじみのDJ Bar EdgeEndにも空き具合を確認したのが4月上旬でした。ところが、EdgeEndは近頃人気が高くてなかなか空きがなく、結局U.K.の来日公演が終わった後のこの日(6月30日)にイベントを開催することとなりました。

今回は、これまでになかった試みとしてFacebook上にイベントを立て、友人たちをFacebook上で招待すると共に、開催期日が近づいてからは断続的にFAQを公開してイベントへの期待を盛り上げるということをやってみました。それが集客にどれだけ奏功したかは効果測定が難しいところですが、少なくともFacebook上でつながっている人たちへの情報提供手段としてそれなりに有効だったのではないかと推測しています。 さて、イベント前夜にベースの弦を交換し(弾きやすさ重視で4弦=.100の細めセット)、当日の朝は悪戦苦闘しながらこの日かける曲のCDをかき集めて、満を持して自宅を出たのがイベント開始1時間前の17時頃。長丁場の夜戦に備えて腹ごしらえをしようと道玄坂上の松屋に入ると、そこにいた先客はrobin☆さんでした。

こちらが今回の私の機材=iPad。iOSアプリのdjayでiTunesの曲を呼び出す仕掛けで、このイベントを企画し始めた段階から、自分はiPadで回す(?)と決めていました。CDを探したのは、これが不調だった場合のバックアップという意味もありますが、もっぱらお客さんに「このアルバムの曲ですよ」と見せるためです。

1人40分×2の持ち時間で、Hatchさん→robin☆さん→私というサイクルを2回繰り返しますが、もちろん二つのセットは内容が異なります。私のファーストセットは「Eddie Jobson縛り」としてみました。以下、「曲名 / ミュージシャン名 / アルバムタイトル」の順です。

Night After Night / U.K. / "Night After Night" (1979年)
上記の趣旨から今回のイベントのサブタイトルにもした「Night After Night」。堂々たるミドルテンポの曲で、高速アルペジオによるテーマリフと中間部の美しいメロディを持ったオルガンソロが印象的な曲です。今月中旬のU.K.のライブでは「Alaska」から引き続いて演奏されましたが、私としてはこの取扱いはあまり好みではなく、33年前と同様にアンコールの1曲目として扱ってほしかったですね。
The Purple Speed Queen / Curved Air / "Air Cut" (1973年)
Eddie Jobsonのプロキャリアの記録としては最初のもの。Curved Airから看板ヴァイオリニストのDarryl WayとキーボーディストのFrancis Monkmanが抜けた穴を1人で埋めた天才少年(当時17歳)としてのデビューです。この曲の中でEddieは、アップテンポなリズム隊をバックにアグレッシヴな(でも微妙にイナタい)シンセサイザーソロを聞かせています。
Uniform / Jethro Tull / "A" (1980年)
U.K.が解散した後、Ian Andersonとのコラボレーションとして制作が開始され、最終的にはJethro Tullの作品としてリリースされた「A」。全編にEddieのキーボードとヴァイオリンが活躍していますが、ここではEddieのヴァイオリンが全面的に活躍し、そこにIanのフルートが絡むというちょっと異色な「Uniform」を取り上げてみました。
Lament / King Crimson / "Starless and Bible Black" (1974年)
来場していたナカノさんから「これはEddieと関係ないでしょう?」と質問された曲。確かにこの演奏でヴァイオリンを弾いているのはDavid Crossなのですが、これをEddie縛りの中に入れたのは、ライブ盤『USA』においてEddieがエレクトリック・ピアノをオーバーダブしており、私がEddie Jobsonという名前を初めて知ったのがまさにこの『USA』のジャケット裏面に記されたクレジットEddie Jobson, Violon on 'Larks' Tongues' 'Schizoid Man' and piano on 'Lament''だったからです。
Black Page #2 / Frank Zappa / "Zappa In New York" (1978年)
Terry Bozzioの複雑怪奇なドラムソロの上にメロディ楽器が意外にも美しい旋律を重ねた不思議な曲。このZappa SchoolでのEddieとTerryの出会いが後にU.K.でBill Brufordの後任に(全くタイプの違う)Terryを呼ぶというアイデアに発展し、先日の33年ぶり来日公演にまでつながってくるのですから、人生というのは本当に数奇なものです(遠い目)。ところで、TerryとEddieの出会いを取り上げるなら、John WettonとEddieの出会いの場となったRoxy Musicも取り上げたくなるところで、実際Roxy Musicの『Viva!』から「Out of the Blue」を紹介することを検討したのですが、私自身がBrian Ferryの声をどうしても好きになれないために断念しました。
Forever Until Sunday / Bruford / "One of a Kind" (1979年)
U.K.から脱退したBill Brufordが自身のリーダーバンドであるBruford名義で『One of a Kind』を発表したとき、Eddie Jobsonの名前はクレジットされていなかったためにこの曲の哀愁に満ちたヴァイオリンはAllan Holdsworthが弾いているものと一般的には思われていたのですが、実はこれはEddieの演奏。この曲はU.K.時代に作曲・演奏されており、当然そこでもEddieがヴァイオリンとキーボードを弾いていて、その演奏ぶりはYouTubeで知ることが可能です。
Who My Friends... / Eddie Jobson / "The Green Album" (1983年)
Eddie Jobsonの初ソロアルバム。このアルバムの評価はなかなか難しく、Eddie色が強すぎるためにバンドとしての一体感や高揚感のようなものは求むべくもないし、Eddie自身のボーカルはヘタとは言わないものの客観的な立場で聴けば魅力的とは言えません。ただ、そうは言っても随所にはっとさせられる瞬間が散りばめられていて、この曲のメインリフにおける手慣れたシンセサイザーの音色とフレーズや中間部の圧倒的な迫力を持つヴァイオリンソロは、Eddieファンなら聞き逃すわけにはいきません。
radiation / UKZ / "UKZ" (2009年)
Eddieのキャリアの中で徒花のように咲いたバンド、UKZ。2009年の来日公演のときはその後のパーマネントな活動に期待したのですが、いつの間にかEddieは新しい音楽の創作ではなく過去のマテリアルの再現に力を注ぐようになり(UKZにスポンサーがつかなかったのかもしれません)、UKZの活動は頓挫してしまいました。ドラマーのMarco Minnemannはその後Dream TheaterのオーディションでMike Manginiと激闘を繰り広げ、ギタリストのAlex MachacekはU.K.リユニオンツアー(一部)で雇われ稼業を続け、Trey Gunnは1人Discipline活動を展開し、フロントマンでありながら最も影が薄かったAaron Lippertは「あの人はいま」という番組にとりあげられそうな状況……。それでも、この「radiation」だけは聴き継がれるべき力を備えていると思います。
Nevermore / U.K. / "U.K." (1978年)
ファーストセットの最後は、U.K.のデビューアルバムの中でも人気が高く、スリリングなシンセサイザーソロが展開する「Nevermore」。冒頭のアコースティックギターソロはカットして、リズム隊が入るところからつなげばよかったかな、とちょっと後悔。

この日は、今の職場、前の職場、クライミング仲間、ラン友などいろいろな友人たちが足を運んでくれました。ただ、この手のイベントの難しいところで大音量の中では会話もままならないし、もともとプログレに予備知識のない人は「このメロトロンの音のざらつき具合が素晴らしい!」などとは絶対思わないわけで、どこでどうノったらいいのかも掴みきれなかったかもしれません。それでも、多くの友人たちが最後までがんばって(笑)くれて、本当に感謝です。

さて、robin☆さんの「Going for the One」に続く私のセカンドセットは、なるべく聴きやすい曲を集めるというコンセプトです。

Does It Really Happen? / Yes / "Drama" (1980年)
冨田勲の『火の鳥』を前に置いてこの曲につなげましたが、直前もYesだったので臨機応変に『火の鳥』は省いてもよかったかな。ともあれ、Yesの膨大な楽曲(Hatchさんも「Siberian Khatru」をかけていました)の中でもJon Anderson不在という点で異色のアルバム『Drama』から、冒頭のベースのリフがかっこいい「Does It Really Happen?」で後半スタート。そしてこの曲のコーダ部分を省略して次につなげたのは、Kansasです。
Questions of My Childhood / Kansas / "Leftoverture" (1976年)
『Leftoverture』と言えば「Carry On Wayward Son」が最終兵器なみの存在感を持っているのですが、他にも名曲・佳曲が多く、このアップテンポなピアノパターンとわかりやすいメロディを持つ「Questions of My Childhood」も大好きな曲の一つです。実は今回、自分の中では一番ポイントになっていたのがこの曲ですが、Kansasなんかかけると筋金入りのプログレファンから怒られるかな?と内心ドキドキだったところ、イベント後にナカノさんやカネコさんから好反応をいただけたのでほっとしました。
Vital Signs / Rush / "Moving Pictures" (1981年)
Rushから何か1曲かける、そしてそのときは自分もベースを弾く、というのはあらかじめ決めていたことですが、では何をかけるか(というより何を弾くか)は、最後まで選曲に悩みました。定番の「The Spirits of Radio」や「Tom Sawyer」では自分がつまらないし、「Red Barchetta」はちょっとプログレ色が薄いし。『Hemispheres』から「Circumstances」なども考えましたが、これは指がついていかない(汗)。で、テクニカルなリフさえ何とかこなせば展望が開ける、変わった雰囲気をもった「Vital Signs」にしてみました。Geddy Leeの真似ですから当然ツーフィンガーでコピーしたのですが、イベント直前になって「ダメだ!右手がついていかん!」とピック弾きに変更。結局、どちらにしても指は回りきれていなかったのですが……。
Zundoko Bushi / California Guitar Trio / "Cg3+2" (1978年)
場つなぎに、ウケ狙いのこの曲。ジャパニーズ・トラディショナルな「ズンドコ節」と「21Century Schizoid Man」のコラージュ(?)です。何年か前に、当時御茶ノ水にあったバーDefShotで初めてこの曲を聴いたときには思わずのけぞったものですが、この日EdgeEndに集まってくれた人たちは、果たしてどうだったでしょうか?ともあれ、この曲は後半がダレるので短めに切り上げて、次の曲へ。
Fantasy Bootleg "Watcher of the Skies" / The Tangent / "COMM" (2011年)
デビュー前のPeter Gabrielが結成初期のYesのメンバーと共に録音した音源が発掘された!という触込みでYouTubeにアップされ物議を醸した曲。もちろんフェイクですが、確かにこれは凄い。ボーカルはPeterの声質にそっくりだし、Chris SquireやBill Brufordの特徴的なベースとドラムも見事に再現されています。The Tangentの作品を手にとったのはこの『COMM』が初めてで、しかもこの「Watcher of the Skies」のためという不純な動機ですが、同じアルバムに収録されているオリジナル曲もいいですね。
Run Like Hell / Pink Floyd / "The Wall" (1979年)
私と同じ年生まれの同僚F女史が女子高生時代はPink Floydのファンだった(!)とあらかじめ聞いていたので、Pink Floydから何か一曲……と少し悩んだ末に、この曲をチョイス。本当はライブ盤の方がアップテンポでノリがいいのですが、曲のイントロ部でRoger Watersが聴衆を侮蔑し挑発するMCが入っているので、熱気は少し劣るものの無難なスタジオ盤を選択しました。それにしても、Pink Floydにしては珍しくスクエアなリズムで、イベント向きです。
Starless / King Crimson / "Red" (1974年)
最後は、プログレファンなら感涙に咽ばずには聴けない「Starless」です。選曲の過程では、最初のJohn Wettonのボーカルが入っているパートをカットしてその分リストに一曲増やそうかと思っていたのですが、そのようにdjayでキューポイントをセットしてテストを重ねているうちに、やはりこの曲は通して聴いてもらわなければダメだ、と思い直しました(ちなみに、そのあおりを受けて最後の最後にセットリストから落ちたのは、Sagaの「It's Time」)。この曲では、ボーカルパートはしっかり聴いていただいて、途中からインストオンリーになるところから、私もベースで参加。静かだった曲がだんだん熱を帯び、ついに一気に暴風雨に突入して最後に夜明けの希望を垣間見せながら終わるところまで、時間にするとわずか8分ほどですが、最後はツーフィンガーの持久力が限界を迎えそうになり、本当にあせりました。

上記のとおり、かけた曲に合わせてベースを弾いたのは「Vital Signs」と「Starless(後半)」の2曲。前半のセットリストの中からも弾ければよかったのですが、練習時間が足りず断念しました。もちろん「In the Dead of Night」を組み込めば簡単だったのですが、それではつまらないし……。

上の写真がこのイベントでの私の楽器回りのセット(アンプはレンタル)ですが、このベースはRushのGeddy Leeの愛機のレプリカモデル。エフェクターでオーヴァードライブをかけてやると、ジャズベの操作性とプレベの野太さが共存した音になってくれました。

以上で、この日のイベントは終了。集まって下さった皆さん、本当にありがとうございました。スピーカーから一方的に音楽を流すだけではなく、生身の演奏とコラボさせる今回の企画はどうだったでしょうか?もちろん、演奏能力がある程度のレベルに達していないと話になりませんし、その点が今回の私の一番大きな反省点(もっと地道に練習を重ねておくんだった……)ではありますが、ともあれ、来場された方々の意見を聞いてみたいものです。もし好評を得られていたら、次にやるときは、この日来てくれたまっきーにサックスを吹いてもらおうかな。

終了後、音楽仲間6人で渋谷駅近くの「天狗」へ二次会に繰り出しました。実は、私は6月をプライベート・ラマダンと称してアルコール断ちの月としていたのですが、それもこの日の24時まで。烏龍茶で場をつなぎながら、間もなく迎えるであろう生ビールとの感動の再会を楽しみにしていたのですが、23時半頃に店員さんから「もう閉店です」と無情の宣告が……。

DJイベントって、何ですか?ライブとは違うんですか?

基本的には、DJが持ち込んだディスク等を用いて、既存の曲を次々にかけていくイベントです。今回のイベントでは、参加者の皆さんはゆったりお酒を飲み、参加者同士の会話を楽しみながら、DJがかける曲に耳を傾けていただくということになります。「プログレ」というテーマが設定されている中で、(1)どういう選曲で、(2)どのような順番で、(3)どのようにつないでかけられるか、といったあたりが聴きどころになります。なお、興が乗ればDJも歌ったり、楽器をとりだしたりするかもしれませんが、たとえ下手でも優しくスルーして下さい。
プログレって、何ですか?食べられるものですか?
...プログレは食べ物ではありません。Progressive Rockの日本での略称です。複雑な曲構成、高い演奏能力などいくつかの特徴はあるものの、その定義は曖昧模糊としており、人によって捉え方がかなり異なります。最大公約数的な定義は、こちら(http://goo.gl/sr9L)をご覧下さい。このジャンルのストライクゾーンど真ん中のバンドとしては、King CrimsonやYesなどが挙げられますが、今回のイベントでは、そこから派生して、(1)プログレっぽいアレンジが施された曲、(2)プログレ人脈が参加した曲、などもかかることになると思います。つまり、「この曲のどこがプログレ?...あっ、そうか」といった謎解きも、楽しみの一つです。
EdgeEndって、どういうところですか?食事は出ますか?
EdgeEndは、渋谷にあるとてもこじんまりとしたDJバーです。行き方さえわかっていれば、JR渋谷駅の改札から徒歩10分程度で着けると思います。最初にカウンターで800円払っていただいてワンドリンク、あとはキャッシュオンデリバリーです。食事は出ませんので、あらかじめ夕食をすませておくとよいでしょう。また、軽食程度の持込みは可です。お店に聞いたところでは「乾き物、ポテトチップス、サンドイッチ等」は持込みOKという、なにやら微妙な説明を受けました。
当日はどんな準備をしていけばいいですか?ドレスコードはありますか?
格好は自由ですが、プログレは一応「知的な」音楽なので、あまりパンクやヒップホップなスタイルはお勧めしません。持ってきていただくのは、音楽を愛する心とお財布だけ。持ち帰っていただくのは、印象的な曲と新しい友達との出会いの思い出。
主催者からお願い
土曜日のDJイベントにお越しいただける方(←ありがとうございます)に、一つお願いがあります。それは、イベント運営にまつわる大人の経済学...と言えばお察しいただけることでしょう。すなわち...「EdgeEndで、たくさんお酒を飲んで下さいねぇぇぇ」。私自身は、今月はプライベート・ラマダン。6月1日から30日まで一切アルコールを摂らない月となっておりまして、イベント当日がその最終日です。翌日になればそれこそ浴びるほど飲むつもりですが、イベント会場では皆さんの肝臓力にすがるしかありません。どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m