下町

2013/08/20

人に勧められて読んだ『下町ロケット』。痛快でした。

巷で話題のTVドラマ『半沢直樹』の原作本の著者でもある池井戸潤氏の、第145回(平成23年度上半期)直木賞受賞作。元宇宙工学研究者である主人公は、ロケット打ち上げ失敗の責任をとって7年前に研究者の道を諦め、大田区にある実家の町工場を継いでいたが、大口顧客の取引停止、特許訴訟、資金繰り難などに翻弄される中で、大手重工企業から申し出を受けた20億円での特許売却の申し出に対し、自社開発技術に対する誇りと物作りへのこだわりを武器に意地を見せる、というお話です。

前半のヤマは、主人公の会社の主力製品である小型エンジンに関する特許侵害訴訟を巡る法廷闘争。訴訟に勝つことではなく、訴訟継続を通じて主人公の会社が体力的に疲弊するのを待って、その技術力ごと経営権を手に入れようとする大手同業企業に対し、訴訟代理人に迎えた知財に明るい辣腕弁護士が仕掛けた反訴で対抗し、思わぬ援軍もあってついに勝利を収めるまでが、最初の2/5。ここまででも十分にドキドキしますが、さらに続くのは、強固なキーテクノロジー内製化方針の下に主人公の水素エンジンに関わる特許の取得ないし独占的使用許諾を申し入れる大手重工企業との、互いのプライドを賭けた戦いです。ノーリスクで多額の特許使用料を得られる魅力的な申し出に一度は傾きつつも、自分が開発した部品が搭載されたロケットを宇宙に飛ばしたいという主人公の夢が、部品供給の道を選択させます。町工場に技術力で先行されたことを潔しとしない大手重工企業による、苛烈な取引先調査。その背後で起きている、主人公の会社内の不協和音。さらには、最後にその正体が明らかになる、主人公個人をターゲットにした巧みな罠。そういった諸々が渦を巻いて、ストーリーの終幕へと一気になだれ込んでいきます。

溜飲下げ系の極上のエンターテインメント小説で、特に、それまでぱっとしなかった銀行出身の経理部長が、横柄な大手重工企業の評価担当者相手に決める啖呵が最高。しかも、これで終わりかと思わせておいてまだ続く紆余曲折に時間を忘れて読み耽りました。あまりに面白かったために、ハードカバーで全400ページ余りのうち終わりまでの350ページほどを月曜日の夜に一気呵成に読み通してしまい、さっそく翌日の私の職場(法務部門)でのミーティングでも紹介したのですが、あまりに詳細に説明したために部下たちから「ネタばらしはやめてくれ〜」という悲鳴が上がりました。

さて、次は何を読もうか。同じ作家なら、ゼネコン業界の談合を扱った『鉄の骨』か三菱自動車のリコール隠しが題材の『空飛ぶタイヤ』が面白そうです。しかし、ここでエンターテインメントにどっぷりハマるのも怖い気がするので、ずばり『談合の研究』とか『リコールは闇に葬られた』みたいなノンフィクションを探そうかな……と言いつつ、結局『空飛ぶタイヤ』をAmazonで注文してしまいました。