輪胎

2013/08/30

下町ロケット』に続いて、同じ池井戸潤の『空飛ぶタイヤ』を読了。走行中のトレーラーから外れたタイヤが歩道の母子を直撃して死亡事故を起こし、その原因が「整備不良」であるとされたことから経営面でも生活面でも窮地に追い込まれた中小運送会社社長が、事故の真相である車両の構造的欠陥とメーカーのリコール隠しに迫ってゆくというお話です。

危ういとみると途端に手のひらを返す取引銀行や取引先、主人公の会社の内紛と結束、悪役大企業内部の権謀術数、主人公に味方する別の金融機関や弁護士の登場、裁判での和解の描写など、『下町ロケット』と同工異曲である点は否めません(ただしこちらの作品の方が先)が、息子たちの通う小学校のPTA会長でもあるために学校でもモンスターペアレントに吊るし上げられるというエピソードはかなり異色です。

それはさておき、これは有名な三菱自動車工業のリコール隠し事件に題材をとった小説で、このリコール隠し事件は私も職場のコンプライアンス研修の際に講師として採り上げたことがありますからよく知っていますが、それでもこの本を読み進めてゆくと「こんなにひどいことをしたのか、あの会社は!」と義憤に駆られて思わず拳を握りしめてしまいました……というのはさすがに三菱自工に対してフェアではなくて、この本に書かれていることは、あくまでフィクションです。ただ、著者はもともと三菱銀行の行員から作家になった経歴の持ち主ですから、スリーダイヤモンドの社風やグループ企業間の力関係などは熟知した上で、その知識をこの本に反映しているであろうことは想像に難くありません。

ともあれ、『下町ロケット』と同様にエンターテインメント小説としての魅力は満載で、文庫本の上巻を水曜日の夜から木曜日の午前4時まで、下巻を木曜日の夜から金曜日の午前3時までかけて一気に読み通してしまったため、さすがに今日はもうへろへろ。今夜は本を読むのはやめて、さっさと寝ることにします。