使命

2013/12/19

先月読んだ『山本美香という生き方』がイマイチと感じられたことから、続けて買ってみたのが『山本美香最終講義 ザ・ミッション』です。

早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース(Jスクール)で非常勤講師として行った山本美香さんの講義のうち、2012年の3回の講義の模様をほぼテープ起こしそのままに収録したもので、「ジャーナリズムと戦争」というテーマの下に、自身のビデオジャーナリストとしての生い立ちから災害報道を機に確立に向かった自身のスタイル、アフガニスタンでの戦争取材の中でぶつかった取材源の秘匿の問題やフリーランスである自身の報道の署名性、テレビ報道の特徴である速報性の功罪、そして「現場で」取材することの必要性と報道自粛の問題など多岐にわたる内容を含んでおり、その中で学生とのやりとりが生々しく記録されているほか、山本美香さんの著書を課題図書として学生たちが作成したレポートも掲載されています。

山本美香さんの講義は、とても率直で誠実な語り口で展開されてゆき、その中で「現場へのこだわり」「現場から伝える」「現場で考える」といったことについての自身の考え方がストレートに伝わってきます。たとえば、取材のために戦場に残るか、あるいは自身が管理者であったなら部下に戦場に行かせるかという課題を設定し、このように説明します。

誰だって自分が行ってくれと言った人に何かあったら嫌だなと思うのは当たり前です。上司として、部下が危険な目にはできるだけ遭ってほしくないと望むのは、人間として普通のことだと思います。ここでどうしても考えてほしいのは、何かやらなければいけないのではないかという空気が、会社の中にあるかどうかです。会社の中でこれはやるべきことだとまず決めて、ではどうやるのかというシステムを考えなくてはならない。やるか、やらないかではなくて、当然やるでしょうと。世界的にこんなことが起きていて、とても重要なことで、やらない理由が見つからない。それなのに「やらない」という選択肢が出てくるのはどうしてだろう、何が問題なんだろう。そこから始まらないと、ジャーナリズム、報道は成り立たないはずです。

これに対して、学生たちのレポートの中にもはっとさせられるような(決して迎合的ではない)指摘があって、面白く読むことができました。アフガニスタンでのルポの中で反タリバンのマスード司令官の死を「英雄の最期」と呼ぶように反タリバン支持の立場を持つことはジャーナリズムの倫理に照らしてどうなのかとか、やはりアフガニスタンではヴェール(ブルカ)を女性抑圧の象徴としてとりあげながらイラクではヴェール(アバヤ)の中まで検査をする米兵を伝統蹂躙と非難するのはダブルスタンダードではないかとか。

本書には学部での講義の様子も収録されていますが、その内容は上記Jスクールでの講義のダイジェストのような内容なので説明は不要でしょう。ただし、「講義後の学生さんへのメッセージ」に記されたメディアの世界に身を置くと、力を持っていると勘違いしてしまうことがあります。高みから物事を見るのではなく、思いやりのある、優しい人になってくださいというメッセージには、山本美香さんの人柄がそのままに反映されているようです。そして、巻末の3本の寄稿が、実は本書の中で最も価値が高いパートかもしれません。山本美香さんがかつて所属したアジアプレスの野中章弘代表が記述する山本美香さん被弾の模様の壮絶、ジャパンプレスの同僚だった藤原亮司氏が描く素顔の山本美香さんの思い出の寂寥、そして早稲田大学政治経済学術院教授である瀬川至朗氏による教育者としての山本美香さんの理念と限界。ジャーナリズム教育者としてまだ成長途上にあった山本美香さんの死を深い喪失感と共に悼む同氏の言葉で、本書は締めくくられています。