決手

2018/06/06

ほぼ毎日チェックしているブログ「ビジネス法務の部屋」の6月5日のエントリーで、『判例時報 No.2365』に「企業間ビジネス紛争及び会社組織等紛争に関する裁判の運営上の諸問題-企業法務の訴訟代理人及び裁判官のために」(長い!)と題する連載が始まったということが紹介されていました。

目下、法務担当として企業間訴訟に直面している身としては大変興味深い内容なのですが、さらに目を引いたのは、紹介記事の中の次のくだりです。

スルガ銀行 vs 日本IBMシステム開発紛争事件の判決の決め手なども紹介され……

勘定系システム開発プロジェクトが破綻し、双方が損害賠償を求めて2008年以来争い続けたこの裁判は、2015年に日本IBMに41億円の支払義務を認める判決が確定してSI業界に激震が走ったのですが、その判決の決め手が紹介されているというのですから読まないわけにはいきません。そこで早速『判例時報』を購入して読んでみたのですが……。

東京高判平25・9・26(略)も会議録が立証の決め手となったケースである。

……それだけですか。

一応文脈を説明すると、「裁判官の視点から企業等に期待する訴訟紛争の可能性を考慮した日常対応」という節の中で、例えば、としてシステム開発の場面を取り上げ、システム開発の経過に関して開発会社側と発注者側の会議録がきちんと作成されていると責任の所在が明らかになることが多い、という流れで出てきた説明ですが、これだけ見たら当たり前です。

ただしこの訴訟において、日本IBM側は「議事録の内容をスルガ銀行にとって都合がいいように変更するよう求められた」と主張したという有名なエピソードがあります。しかし、プロフェッショナルであるベンダーは議事録の重要性を承知していなければならず、したがって正規の手順を踏んで双方が承認した議事録には証拠能力があるとされるのは覚悟しなければならないこと。日本IBMの証言の真偽はともかくとして、こうしたバックグラウンドを知った上でもう一度会議録が立証の決め手となったという記述を読むと、少し深みが増すかもしれません。

それにしても、上記の一行のために1,440円というのはちょっと高いなぁ。もちろん「41億円」とは比較になりませんが。