暁壁

2018/11/14

映画『The Dawn Wall』の上映会に参加しました。場所は、神保町のさかいやスポーツシューズ館です。

自分がヨセミテに遊びに行ったのは、昨年の夏のこと。そのときに見上げたエル・キャピタンの南東壁は朝日を浴びてそこだけ白く輝いていました。この壁に引かれたフリークライミングのラインが、ドーン・ウォールです。

このラインを設定したトミー・コールドウェルと、そのパートナーとなったケビン・ジョージソンがフリー初登に成功したのは2015年。前年12月27日から1月14日までの19日間にわたるワンプッシュでした。この初登の模様を記録した映画『The Dawn Wall』が今年米国で公開されたのですが、日本でもいくつかの場所で上映会が開催されることになり、神保町のさかいやスポーツでの上映会にキャンセル待ちを申し込んでいたところ、めでたく参加できることになったというわけです。

スポンサーであるレッドブルが配布してくれたエナジードリンクで気合いを高めてから、上映開始。

映画は、クライミングの初日からトップアウトした19日目までを順を追ってとらえ、そのところどころに回想的にさまざまなエピソードが挟まれる構成です。紹介されたエピソードは、トミー・コールドウェルの生い立ち、父の指導で始めたクライミングで少年のときから頭角を現したこと、ベス・ロデンとの出会いとキルギスタンでの人質事件のトラウマ、事故での左手人差し指切断、ベスとの結婚とその後の破局、傷心の中ひとりで壁にぶら下がりラインを探るつらい日々、ボルダラーであったケビン・ジョージソンのプロジェクトへの参加、そしてその後数年にわたるトライと失敗の日々……といったところ。

Photo by Tom Evans

映画の中でのハイライトとなるのは、15ピッチ目のトラバース(9a)のパートです。

その一つ手前の9aのトラバース(試登段階でRP済)は2人とも一日でクリアしているのですが、続く厳しいトラバースをトミーはやはり1日でこなしたものの、ケビンがどうしてもクリアできず、ここでレストも含め1週間を費やすことになりました。この間のケビンの葛藤は見ていて気の毒になるほどで、外野からは、ケビンが足を引っ張っているであるとか、トミーはケビンの完登を諦めて自分だけでも完登しようとする(べきな)のではないか、といった雑音も上がりましたが、1月11日、ケビンが7日間11トライの末にこのピッチのRPに成功します。先に核心部を抜けて20ピッチ目の上にあるワイノ・タワーに達したときのトミーの雄叫びと、ついに15ピッチ目をクリアして顔を伏せ壁にぶら下がるケビンの姿は、いずれも感動的。上映終了時には拍手があがりました。

この映画は日本では上映の予定がないとのことですが、その代わりAmazon.comでDVD(字幕なし)が販売されるほか、Vimeoで有料ダウンロードも用意されるそうです。圧倒的な迫力で画面を覆い尽くすエル・キャピタンと、その壁の中で少しずつ夢の実現に向けてピッチを伸ばしてゆく2人のクライマーのドラマ。必見です。

こうなると、今年公開されたもう一つのヨセミテクライミングの記録であるアレックス・オノルドの『Free Solo』も見たくなってきますが、今のところ日本国内での上映情報は見当たりません。なんとかならないものでしょうか?