圧巻
2018/11/19
TOHOシネマズ渋谷で、映画『ボヘミアン・ラプソディ』を観てきました。タイトルから容易に想像できるようにこれは英国のロックバンドQueenを題材にした作品で、1970年のFreddie MercuryとBrian May、Roger Taylorとの出会いから、伝説的なステージと言われる1985年7月13日のライブエイドまでを時系列に沿って追ったものですが、ストーリーの縦軸にあるのは、Freddieの虚飾の中の孤独と苦悩と後(1991年)に訪れる死です。当然、Freddieの両性愛者としてのプライベートの描写も詳細ですが、表現は比較的マイルド。
Queenの専売特許であるギターオーケストレーションによる20世紀フォックス・ファンファーレから始まったこの映画において、Queenの4人のメンバーを演じているのはそれぞれの役柄に似た俳優で、周辺の人物(たとえばFreddieの最後の恋人となったJim Hutton)も基本的な特徴が合致する俳優をあてているようです。特にBrianを演じたGwilym Leeはルックスも語り口もそっくりですが、一方、Freddieを演じるRami Malekは、特に目が大きいことなどからあまり似ていませんし、プライベートの場面でのおずおずとした話し方には違和感を覚えます。これは、私がリアルタイムで親しんだFreddieではない。
しかし、この映画にはBrianとRogerもアドバイザーとして加わっていることからすると、実際のFreddieもステージを降りたときには内向的な面を示すことが多かったのかもしれません。もしそうであれば、自分の中のFreddie像は書き換えなければならなくなります。
最も違和感を覚えたのは、実はクライマックスのライブエイドの場面です。映画のストーリーの中では、Freddieの破天荒な私生活と彼がソロ活動に移行したことが原因でバンドは解散寸前だったものの、エイズに犯されたことを自覚したFreddieが他のメンバーに懇願してライブエイドを舞台にバンドを再生させ、長いブランクのために不安を抱えてステージに上がっていた他のメンバーたちもFreddieの歌い出しに手応えを感じて、そこから偉大なパフォーマンスが実現するといった流れになっています。確かにライブエイドの前の時点でメンバー間に確執が生じていたのは事実ですが、本当のところはこのときFreddieはまだHIV感染を知っていませんし、前年(1984年)にリリースした『The Works』(「Radio Ga Ga」「I Want to Break Free」「Hammer to Fall」「Is This the World We Created…?」などを収録)のツアーで大量動員を果たしてからさほど間があいていないタイミングであり、実際のライブエイドの映像を見れば、ステージに上がった4人の表情は揺るぎない自信に満ちていることがわかります。
そうした違和感はあるものの、それにしてもライブの場面でのサウンドと俳優たちのステージングは素晴らしく、ことにライブエイドの場面の迫力は圧巻です。現にスピーカーから大音量で鳴らされてくる音がどこまで俳優たち自身の演奏を織り込んでいるかは不明です(基本的に過去の音源やプロ演奏者による再現演奏を採用しているものと思われます)が、画面の中の数万人の聴衆たちと興奮を分かち合うことができました。
なお、映画の中で使用されたQueenの曲は、次の通りです。ライブエイドでは実際には6曲演奏されたのですが、映画中のライブエイドの場面では「Crazy Little Thing Called Love」と「We Will Rock You」が省略されている(したがって「完全再現」ではない)のは、映画の尺の問題のほか、音源の品質も考慮した結果かもしれません。
- イントロ
- Somebody to Love
- 本編
- Keep Yourself Alive
- Killer Queen
- Fat Bottomed Girls
- Bohemian Rhapsody
- Now I'm Here
- Crazy Little Thing Called Love
- Love of My Life
- We Will Rock You
- Another One Bites the Dust
- I Want to Break Free
- Under Pressure
- Who Wants to Live Forever
- ライブエイド
- Bohemian Rhapsody
- Radio Ga Ga
- Hammer to Fall
- We Are the Champions
- エンドロール
- Don't Stop Me Now
- The Show Must Go On
その他、Queenの前身バンドであるSmileの演奏場面が映画の最初の方にあるのですが、そこでの楽曲2曲も素晴らしい出来でした。