挿絵

2019/04/05

昨年から今年にかけての徹底的な断捨離の中で、手持ちの大半の本をブックオフに買い取ってもらったのですが、いくつかの本は手放すに忍びず本棚に残すことにしました。そうした残留組の一冊が、こちらの『太陽の子と氷の魔女』(ジャンナ・A・ウィテンゾン)です。

この本がどうして手元にあるのかということを説明するには、まず、今から50年前に私が東映動画の劇場アニメーション作品『太陽の王子ホルスの大冒険』(1968年)の予告編をテレビで見て興味を持ったというところから話が始まります。

こちらがその予告編で、テレビではごく一部が紹介されただけだったと思います。その映像に興味をもった(ものの映画館には連れて行ってもらえていない)私は、小学校の図書館でたまたま題名が似ていた『太陽の子と氷の魔女』を手に取ったところ、ストーリーは全く異なるものの、その内容に深く感銘を受けてしまいました。

その粗筋は、氷の魔女に連れ去られてしまった母を取り返すために幼い兄妹がツンドラ地帯を旅し、苦難の末に魔女を倒すというもの。この冒険譚を縦軸としつつ、寡婦である母の言いつけにもしたがわないわがままな子供だった2人が力を合わせて旅をするうちに、人間的にも生活者(猟師)としても成長してゆく姿が描かれます。そうしたストーリーや背後にある主題もさることながら、上の画像のような昔の北方民族(ヤクート)の暮らしぶりが「ヤランガ」(トナカイの皮で作ったテント)や「トルバサ」(同長靴)といった用語を伴って説明されていて、なぜか郷愁をそそります。

こちらは、金の角を持つ白いトナカイに乗りツンドラの地平線に沿って走るお日さまが、主人公の少年ヤットとその妹テユーネにお日さまの矢を授ける場面。後にこの矢で魔女を倒すことになります。一方、下の絵はヤットとテユーネを覆い隠そうとする暗闇を、お日さまの兄弟であるオーロラのスパローヒンが打ち倒す場面。これらを見ると、シベリアに暮らす人たちの太陽に対する渇望にも似た憧れが見てとれます。

この本は絵本ではないのですが、随所に差し挟まれるこれらの美しい挿絵が本書の最大の魅力です。私の手元にあるこの本は、奥付によれば1969年第1刷、1977年第24刷とありますので、日本でも相当息の長い人気を保ったもののようです。私自身も、成人してから書店で見掛けて懐かしく思い買い求めたのでしょう。そして、改めて巻末にある翻訳者(田中かな子)の解説を読んでみると、もともとこのお話はアニメーションの原作として書かれ、その動画作品『ヤットとテユーネの物語』が1956年にモスクワ、1957年にヴェネツィアで賞をとった後、1963年に今の挿絵入り童話のかたちで出版されたのだそうです。

さて、なぜこの本のことを長々と説明したのか。上記の解説によれば、この動画作品を制作したのは「ソユーズ・アニメーション・フィルム製作所」だとあります。一方、この日見た人形アニメーション映画『ホフマニアダ』の制作は「ソユーズムリトフィルム・アニメーションスタジオ」。この「ソユーズ・アニメ」つながりから、本書を改めて手にとってみたという次第です。

どちらもモスクワにある「ソユーズ」(団結や同盟といった意味)という名前がついているアニメーションスタジオで、ソユーズムリトフィルムは1936年設立ですから『ヤットとテユーネの物語』制作時に存在していたことも確実。だとすると両者は同じスタジオかと思えるのですが、それにしては、英語版のWikipediaで「Soyuzmultfilm」を調べてみてもその主要作品リストの中にこの話は出てきませんし、田中かな子氏の解説にある「新設されたソユーズ・アニメーション・フィルム製作所」という記述もひっかかります。してみるとモスクワには似た名前の二つのアニメーションスタジオがあったのかも?誰か、この疑問を解いて下さる方はいないでしょうか。