庭園

2020/01/12

連休を使った山行が敗退に終わって傷心のままに帰宅し、見るともなしにYouTubeを見ていたところ、RushのドラマーNeil Peartに対して「R.I.P.」のフレーズが使われている動画が複数現れました。えっ、これはどういうことだ?と検索してみたところヒットしたのが、こちら。

なんということ……。2015年に現役を退いたとはいえ、まだ若い67歳という年齢でNeilは脳腫瘍に斃れたのでした。

私がRushを知ったきっかけは、確かこの写真が何かの音楽雑誌に載っていたのを見掛けたことだったと思います。ベースもギターもダブルネック、そしてその後ろの要塞のようなドラムセットにひと目惚れ。見た目から入ったわけです。それがいつのことかも覚えていないのですが、最初に手に入れたアルバムが『Permanent Waves』(1980年)でしたから、この写真はその前の『A Farewell To Kings』(1977年)か『Hemispheres』(1978年)のリリース後のライブで、演奏されている曲は「Xanadu」に違いありません。

さらに名作『Moving Pictures』(1981年)以降、その時々で大胆に音楽性を変えながらも、高度な音楽性とずば抜けた演奏能力に作詞家としてのNeilが書く哲学的な歌詞を重ね合わせた唯一無二の存在であり続けたこのカナダのバンドは、常に現役の音楽家として作品を発表し続けていました。

とりわけリズムセクションの2人のテクニックは際立っており、冒頭に示した「Rolling Stone」の訃報の見出しが記しているように、Neilの緻密に「作曲」されて極度に複雑でありながらメロディアスに聞こえるドラミングはWho Set a New Standard for Rock Virtuosityだったのですが、Neilは1997年に娘を交通事故、翌年妻を癌でそれぞれ失い、そのためにNeilは一時演奏ができなくなってしまいます。しかし、そうした不幸を克服して彼が再びスティックを握り、ベースのGeddy Lee、ギターのAlex Lifesonと共に『Vapor Trails』(2002年)を発表できたのは、この3人の間の固い友情の賜物だったことでしょう。とにかくこの3人は仲が良く、ライブの演奏でも互いに笑顔で声を掛け合っている場面がよく見られたほか、この3人のディナーの様子が映像作品になってしまうくらいです。

さすがにここまでくると「何だこりゃ?」という感じですが、彼らの創作意欲は最後まで衰えることがなく、『Snakes & Arrows』(2007年)と『Clockwork Angels』(2012年)は彼らの30周年記念ツアー「R30」の後にリリースされたものです。

Rushが日本にやってきたのは1984年の一度きりでしたが、幸いそのライブを私は日本武道館で観ることができた上に『Snakes & Arrows』リリースに伴うツアーの一部として行われたトロントでのライブを観に行くこともできました。しかし、うかうかしているうちに40周年記念ツアー「R40」が2015年に実施され、これを最後にNeil Peartがツアーからの引退を表明したことを残念に思っていたのですが、まさかそれからたった5年でこの訃報に接することになるとは思ってもいませんでした。もう一度、彼の叩くドラムに合わせてエアドラムをしたいと願っていたファンは数えきれないほどいたはずですが、それももはやかなわぬ夢です。

Rushのスタジオ作品としては最後のものとなった『Clockwork Angels』のラストに収録された曲「The Garden」。ドラマーの中のドラマーとして「The Professor」の異名と共に多くの愛と尊敬を集めてきたNeilを送るのに、これほどふさわしい曲はないかもしれません。Neil、どうぞ安らかに。