事件

2020/02/12

眞田宗興『監査役事件簿』を読了。

本書は一般社団法人監査懇話会のホームページのコラム欄に、現在は同会の顧問である筆者が連載した記事を一冊にまとめたもので、各種企業不祥事の実例50の中で監査役が果たした役割を解説し教訓を引き出そうとしたものですが、その帯に「そのとき監査役には…もっと何かできることはなかったのか?」とあるように、どちらかといえば監査役がその職責を全うした事例よりも有効に機能し得なかった事例の説明に力点が置かれています。

この種のテーマを扱うときに教科書的には最初に取り上げられることが多い岡山県大原町農業協同組合監事損害賠償請求事件の解説を皮切りに、会計不正、品質不正、子会社における不正といった典型的な事例に加え、経営判断原則、調査委員会、過重労働問題など近年ホットなタームについても実例をあげて解説しており、企業不祥事ネタが好物の私には好適な読み物でした。ちなみに会社名はすべて実名で、有名なあの会社もこの会社も出てきます。

自分が奉職している企業は上場親会社を持つ非上場の完全子会社なので、本書のいくつかの事例で見られるように監査役が株主代表訴訟を通じてその責任を厳しく問われるという場面はただちには想定しにくいのですが、それにしても会社法に基づく義務と委任契約上の善管注意義務を負う点は変わりがなく、そのために監査役は経営・業務執行サイドに対してどこまで踏み込むことが可能かつ必要なのかという点は日常的に意識しなければならないテーマとなってきます。

本書はその点について抽象的な指針を立てるのではなく、数多くの失敗事例(そのほとんどがいわば「踏込み不足」に由来するもの)を取り上げつつそこに筆者の「この事件から学ぶこと」という個別具体的な注釈を加えている点に価値があるのですが、それにしても本書を通じて思うのは「後から見れば失敗だった」としたらそれはやはり「その時点において失敗していた」と評価されることの厳しさ。その厳しさを伝えることが本書の執筆の動機だったなら、それは成功しています。

本書の主題がもともと読者を選ぶ上に、筆者がプロの物書きではないこと、コラムという元記事の性格などから多少厳密ではないところ・文意が通じにくいところなども散見されますが、自分としては久しぶりに短時間で一気通読した本となりました。