竹林

2021/06/06

前回に引き続いてYouTubeネタ(←どれだけネタが枯渇しているのか……)。

徒然なるままにYouTubeサーフィンしているうちにたまたまヒットしたのが、冨田勲がオーケストラを指揮して自作「ジャングル大帝」を演奏する動画。これは懐かしい、と思って検索すると、TVアニメのオープニング映像もアップされていました。輝かしいトランペットの響きで始まる重厚なオープニングは「マイティジャック」にも通じる富田節。素晴らしい!映像の方も力が入っており、冒頭の高峰から滝へ、そして崖の上に立つレオから大平原へとダイナミックにパンするカメラワークやたくさんの鳥・動物たちの滑らかな動き、疾駆するレオの躍動感、そしてラストの光の処理と見どころてんこ盛りです。

手塚治虫の原作は私が生まれる前の作品(1950-54年連載)ですが、TVアニメは1965年から1966年にかけて、つまり私が小学校の低学年の頃にフジテレビ系列で放映されていて、私もこれを見ていましたし、当時はやっていたソノシートも買ってもらいました。このソノシートはストーリー仕立てになっていて、主題歌(歌詞あり)→イントロのナレーション→パンジャの死→船の中でのレオの誕生→レオの脱出→嵐→アフリカ帰還までを音と絵とで追い掛けられるようになっており、中には船と共に沈んだエライザが星座の姿になって「ママは星になったのよ〜♪」と歌いながら海を漂うレオを励ますといった場面もあったと記憶しています。

それはさておき、この見事なオープニング映像を眺めているうちにふと気になることに気付きました。1分17秒くらいのところからレオが森の中を走る場面が出てくるのですが、何かおかしい。 もともとライオンは主に乾燥したサバンナの草原地帯に住むので「ジャングル(熱帯雨林)」と結びつけることに既に問題があるのですが、「サバンナ大帝」ではなんとなくサマにならないし、当時の多くの日本人はアフリカ=ジャングルに覆われた未開の地=暗黒大陸というステレオタイプな決めつけに縛られていたと思うのでこの点には目をつぶるとしても、やはり違和感があります。

動画を止めてみて違和感の原因がわかりました。レオが走っているのは竹林の中だったのです。竹林にライオン?竹と結びつくネコ科の動物は「虎」ではないのか?そもそもアフリカに竹は生えているのか?

しかし、これは私の勉強不足でした。アフリカは東・東南アジア、南米と共に竹の分布(下図の紫)の集中点の一つだったのです。

検索してみたところ、JICAの青年海外協力隊員の方が書いた記事(「ケニアで広がれ!竹の利用!」)の中には次のようなくだりがあって、目を見開かされました。

みなさんは「アフリカの風景」というとどのようなイメージをお持ちでしょうか?一面に広がるサバンナに暮らす野生動物、広い青空にそびえ立つバオバブの木、それとも乾燥して実りの低い大地でしょうか? そのどれもが正解なのですが、それだけではないのがアフリカです。なんと、アフリカには竹が生えているのです。それもケニア在来種の竹も存在しています。「竹のある風景」というのもまたアフリカの一面となっています。

そしてここまできたところで、自分もコートジボワールで巨大な竹の株を見たことがあることをやっと思い出したのでした。

一方、こちらはアフリカを中心としたライオンの生息域を図示したもの。赤はかつての分布域、青は現在の分布域です。赤い地域を見ると、サハラ砂漠やアラビア砂漠に住んでいないことは当然として、ちょうど赤道あたりのコンゴ盆地やギニア湾沿岸も空白域になっていますが、これはまさしく熱帯雨林気候の地域です。そうした例外はありつつも、かつてはインドから西アジア、地中海世界、そしてアフリカの広い範囲にかけて生息していたライオンが、今ではごく限られた地域に押し込められていることがわかります。

「アッシュールバニパルの獅子狩り」(新アッシリア)や「バビロニアの行列道路のライオン装飾」(新バビロニア)に描かれているように古代メソポタミア世界でも百獣を代表する地位にあったライオンは、時代が進むにつれ人間の圧迫を受けて各地で絶滅していった模様。それでも、こうして見るとアフリカでの竹の分布域とライオンの分布域は重なっていますから、ライオンが竹林に住むかどうかは別として、レオが竹林の中を走っていても必ずしもおかしくはない、という結論になりそうです。

こうして「おかしくはない」と納得はしたものの、私が抱いた違和感は多くの視聴者も同様に感じたはず。TVアニメ版「ジャングル大帝」を制作した虫プロダクションのスタッフもそのことは予想できたはずなのに、それでもあえてレオに竹林を走らせた理由はなんだったのか……という疑問は相変わらず残ったままです。