青巨

2023/03/15

ヒューマントラストシネマ渋谷で、映画『BLUE GIANT』を見てきました。原作は『岳 みんなの山』の石塚真一氏で、同氏が山岳漫画の次にジャズを主題にした漫画を書いていたことは知っていたものの実際に読む機会はこれまでなかったのですが、徐々に広がってきた映画評がどれをとってもすこぶる好評なのと、映画音楽全般および演奏シーンでのピアノ演奏が上原ひろみさんであるということを知って興味を持ち、映画館に足を運んだというわけです。

結論ですが、これはすごい。見ればきっと感動します。

人間ドラマという点で面白いのは、主人公であるサックスの宮本には人間的な弱みがあまりなく、むしろ彼と共にジャズバンドを組む天才的なピアニストの沢辺や、ズブの素人からドラムを始めて最後は「So Blue」(デザイン的にはもろにブルーノート東京)のステージで堂々たる演奏を聞かせるまでに成長する玉田の二人にそれぞれの葛藤がある点で、特に人生最初のライブで宮本や沢辺との圧倒的な力量差を思い知らされ愕然として演奏の手が止まってしまう玉田の絶望感にはいたく感情移入しました。そして、自分が普段何気なく見ているライブのステージには、そこにいるミュージシャンの数だけ人生の蓄積があるのだということにもあらためて気付かされました。

しかしこの映画の最大の魅力は、やはり演奏シーンのリアルな描写と音そのものの説得力です。

この点に関してはぜひ実際に映画館に足を運んで確認してほしいのですが、一貫して激しく炎を噴き出し続ける宮本の熱いサックスや、劇中を通じて成長し続けてクライマックスの大舞台に至る玉田のドラムもさることながら、客演の機会を与えられたときにそれまでの技巧の殻を破って覚醒した姿を見せる沢辺の描写がとりわけ強烈。ここは上原ひろみさん自身のありようを映している感じでしたし、最後に交通事故で右手を使えなくなった沢辺が「So Blue」でのライブに左手一本で参加する場面も上原ひろみさんならではの強靭な演奏(収録時に本当に左手しか使わなかったそう)に圧倒されました。

ただし、唯一不満があるのは演奏場面で多用される3DCG的な動きの不自然さです。自分にとっては生理的な不快感を感じるほどぬめぬめとした動きになることがあり、こればかりは、同じモーションキャプチャーを駆使して同じ石若駿が叩いているテレビアニメ「坂道のアポロン」というお手本があるのにと残念に思いました。

▲ドラマーのスティック捌きのリアルさに注目。オルガン演奏もばっちりですが、惜しむらくは1分38秒のところで左手がレスリースピーカーのスイッチを入れる動作をしているのに、1分26秒あたりで見られるオルガンにはそれらしいスイッチがついていません。

なお、LPレコード風のパンフレットもしゃれています。情報量も多いのでこのパンフレットはマストアイテム。必ず購入していただきたい。

何はともあれ、この映画はとにかく音響のよい映画館で見ることを強くお勧めします。