壁旅

2000/07/01

ここのところ、Pink Floydが1980-81年に行ったThe Wall TourのライブCD『Is There Anybody Out There』を繰り返し聴いています。

いわゆるプログレッシヴ・ロックのグループの中で、Pink Floydは特異な地位を占めています。よく並び称されるEmerson, Lake & PalmerやYes、King Crimsonがクラシックやジャズの要素をロックに取り入れて複雑な曲構成(組曲形式や変拍子の多用など)と高度な演奏能力でコアなファンを熱狂させ、かつ、相互の人事交流(?)さえ見られるのに対して、Pink Floydにはそうした要素がほとんどなく、演奏者として高い評価を得ているのもわずかにギタリストのDavid Gilmourくらい。それでも、人間の心の淵を覗き込むような歌詞と独特のムードは、やはり彼等ならではのものです。

そのPink Floydの記念碑的大作である『The Wall』のステージを、CD2枚=1時間45分にわたって収録したのが、このライブ盤。Pink Floydの頭脳として、最もPink Floydらしい部分を担っていたベーシストのRoger Watersの自伝的なストーリーが「The Wall」のコンセプトとなっており、人生の中で経験するさまざまな苦悩を煉瓦のように積み上げて外界(聴衆)との間に壁を築いていくミュージシャンの孤独が、長短とりまぜて28曲の楽曲を通じて歌われていきます。「Another Brick in the Wall」「Comfortably Numb」「Run Like Hell」といった印象的な曲もあるものの、その他の多くはとりたてて特徴もギミックもない平易な曲に聴こえますが、それでも麻薬のように何度もCDを聴き返してしまうのは、瞬間的にはっとさせられるようなギターフレーズがちりばめられていることもさることながら、やはりこの作品のトータルなコンセプトの悲痛さが、聴く側の感情移入を迫るからでしょう。