時間

2000/09/16

西穂高岳山行の間に読み終えた中公新書の『ゾウの時間 ネズミの時間』(本川達雄)は、動物のサイズの違いからくるさまざまな事象を明快に説明して非常に面白い本でした。

たとえばゾウは100歳近くまで生きるのに対し、ネズミは数年。赤ん坊が母親の胎内に留まっている時間やおとなのサイズに成長する時間などもゾウの方が長いのですが、これは何もゾウとネズミの間だけにあてはまることではなく、およそ哺乳類全般について、時間は体重の1/4乗に比例するという関係があることがわかっています。ところが、この関係は息をする間隔や心臓が打つ間隔などにもあてはまり、ネズミの鼓動はゾウのそれよりもはるかに速く打っています。したがって、寿命を心臓の鼓動時間で割ってやると、哺乳類ではどの動物でも同じ20億回という数字が出てきます。つまり、ゾウもネズミも自分の時間をもっていて、同じ20億鼓動だけ生きて死ぬということになります。このことを筆者は物理的な寿命が短いといったって、一生を生き切った感覚は、存外ゾウもネズミも変わらないのではないかと表現しています。

このエピソードをイントロとして、本書は動物の進化の道筋やエネルギー消費量、行動圏と生息密度、運動能力、さらには器官の役割や形態にいたるまで、サイズからの発想で動物のデザインを懇切丁寧に解説していきます。時間とは、もっとも基本的な概念である。自分の時計は何にでもあてはまると、なにげなく信じ込んで暮らしてきた。そういう常識をくつがえしてくれるのが、サイズの生物学であると書かれていることからも、そこには人類が自分のサイズを唯一絶対の尺度として自然を理解しようとする傲慢さへの警鐘が含まれているようですが、適度のユーモアを交えた文体が、この本を肩ひじ張らない読後感の爽やかなものとしています。