憂国

2000/10/29

去年ライブを見に行ったLachesisのレイクみくにさんからご連絡をいただいて、再びプログレ・カバーバンドのライブ。「Progressive Rock Renaissance2000 〜憂国のDRAMA『作品第2番』〜」という、去年に続いてわかる人には抱腹絶倒、わからない人にはさっぱりわからないであろうサブタイトルのついた企画です。雨の中、風邪をひいて頭が重いにもかかわらずいそいそとやってきた吉祥寺のSTAR PINE’S CAFEの前には既に列ができており、開演前にはほぼ満員の盛況。これも前回同様、前から3列目の右端に席をとって写真撮影に備えました。

主催者の挨拶があってほぼ定刻通り18時半にストラヴィンスキーの「火の鳥」が流れ、最初のバンドはYesトリビュートのAslanです。

Siberian Khatru
オープニングにうってつけのこの曲、ベーシストにとっても気持ちよく忙しい曲でもあります。ハープシコードのバックで対位的に動くラインがちょっともたつきましたが、最後のフリーなギターソロで「うわー、このスピードでエンディングを合わせられるかな?」と不安に思っていたところをアイコンタクトでばっちり決めたのはさすが。
And You and I
去年は『Yessongs』バージョンでしたが、今回はスタジオ盤のアレンジで、薄いオルガンの上にアコースティック12弦ギターのイントロ。ポルタメントがかかったシンセのレゾナンスのきいた音色も、スティールギターの音づくりも、ハイハットのしゃきしゃきした質感も本家そのまま。
Close to the Edge
ここまでで不要になったアコギとスティールギターを片付けている間にボーカルが「Hearts」のエンディングを歌って場をつないだ後、なんと『危機』3連発のこの曲。自分的には最も聴きどころの第二楽章のポリリズムがさらに磨きがかかっていた感じで、最後のオルガンソロもよい出来でしたが、この曲ではどうしても第三楽章でコーラスの弱さが出てしまうのが辛いところです。
Long Distance Runaround〜The Fish
「『危機』から3曲だけやりました」とMCが入りましたが、このアルバムには3曲しか入っていないのだからここまででLPまるまる1枚再現したことになります。続いてキーボードがカウントを出して『こわれもの』からのこの曲。私がベースを始めたかなり初期に、雑誌ロッキンFに出ていたTAB譜で覚えた懐かしい曲です。しかもイントロでドラムが入った後のリズムが跳ねた感じで、オリジナルよりもさらにファンキー。そしてそのままギターがハーモニクスのフレーズを弾きだして、まさかの「The Fish」。しかし、ベースを高々とたてて4弦開放を一発鳴らすパフォーマンスは、もっと自信たっぷりにやってほしかったと思いました。
〜Perpetual Change
リズムが途切れることなく、ボーカルが入って「?」と思ううちにギターとオルガンの特徴的なカッティングが切れ込んできてなんと「Perpetual Change」。近年、本家のライブでも演奏されているので意外というわけでもないのですが、徹底的にBill Bruford在籍時のYesにこだわってくれた選曲がうれしく、期待に応えてスネアのタカタカタカタッタンというパターンが琴線に触れてきます。そして盛り上がるだけ盛り上がった後のドラムソロの後、これ以上ないほどにぴたっと決まったエンディング。この曲を聴けただけでもモトがとれた感じです。

続いて約20分のインターバルの後に、U.K.(それも「4人U.K.」)をカバーするUnKnown。このバンドのウリはなんといってもエレクトリックヴァイオリンを操る美人キーボーディスト(ということになっています)。ただ、ボーカル兼ベースが聴衆の目の前に譜面立てを立てるのはやめて欲しい。公開練習じゃないんだから。しかも、このバンドもキーボードの台数が多い(先ほどのAslanが5台、UnKnownは4台)上に、今どきのキーボードはステレオ出力だったりMIDIが出入りしたりするのでケーブルがこんがらがってなかなかスタートできません。焦れたファンがU.K.コールを始める中、ようやく準備が整っての1曲目はやっぱりこれしかないでしょうの「Alaska」。

Alaska〜Time to Kill
往年の名機CS-80の腰に響くような重低音と空気を切り裂く高音とが見事に再現されていましたが、キーボードの音量が全体に小さめ。途中からイン・テンポになってオルガンに移っても状況は変わらず少々残念ですが、これはPAさん側の問題なので仕方ありません。曲はそのまま原曲通り「Time to Kill」へ。キーボードの彼女が足元からとりだしたのはクリスタルのエレクトリックヴァイオリンで会場は大歓声。エフェクターを踏みかえるところで接触不良のためか音が出なくなったりしましたが、バンド交替でセッティングの時間がない中での1曲目なので大目に見ましょう。
Carrying No Cross
これは「3人U.K.」の曲ではないか?と思う向きもあるかもしれませんが、4人時代に既にたびたびステージでは演奏されていて、私が持っているブート『The Sahara of Snow』でも聴けます。アレンジもアルバム『Danger Money』に収録されたバージョンとはかなり違い、中間部はインタープレイっぽいやりとりが行われます。
Beelzebub
「Brufordから3曲いきます」とMCが入って最初のこの曲にはびっくり。1977年のBill Brufordの初ソロアルバムのオープニング曲で、これを聴くのは何年ぶりか忘れましたが、今でもレコードは実家に置いてあるはずです。演奏は実に軽快で、原曲を見事に再現していました。ただ、欲を言えばこのアルバムからはタイトル曲の「Feels Good To Me」をやってほしかった。この曲の方が、好きなんですよね。
Forever Until Sunday
こちらはBruford(バンド名)名義の『One of a Kind』(1978年)から。4人U.K.が分裂してドラムのBill BrufordとギターのAllan Holdsworthが上述のソロでも一緒だったベースのJeff Berlin、キーボードのDave Stewartと結成したバンドの1枚目に収められ、哀愁を帯びたヴァイオリン(by Eddie Jobson)が素晴らしい曲ですが、この曲と次の「The Sahara of Snow」も既にU.K.のステージで演奏されていた曲です。
The Sahara of Snow
ここでキーボードが1台追加されてゲスト登場。ケンソーのキーボーディスト小口健一氏を加えての「The Sahara of Snow」は小口氏の「鍵盤下から上までフレーズ」連発ですが、ちょっとバンドが緊張していたかもしれません。
Thirty Years
ここでもまたCS-80風のストリングス・サウンドが美しく、後半のソロの掛け合いもGood。
〜By the Light of Day〜Presto Vivace〜In the Dead of Night
そのまま「By the Light of Day」の終わりのゆったりしたシンセ・ポルタメントから例のドラム・パターンが始まって聴衆が固唾を飲む中、「Presto Vivace」の怒濤の高速フレーズが炸裂。3人U.K.のライブを見たときはEddie Jobsonが両手で弾いていたフレーズを、彼女は右手1本で弾いて左はカウンターメロディを弾いているし、ギターもしっかりユニゾンしていて演奏力の高さを見せつけてくれました。そのままU.K.の代表曲「In the Dead of Night」ですが、ギターには申し訳ないけど完コピして下さい(もしかするとどれかのブートで聴けるライブバージョンだったのでしょうか?)。
Lark's Tongues In Aspic - Part II
アンコールを求める連呼に「用意していたアンコール曲をやります。キング・クリムゾン『太陽と戦慄』」でうわ〜と驚く間もなくギターの暴力的なリフがスタート。ヴァイオリンがいるからこそできるこの曲、全楽器リラックスしていながら緊迫感に溢れた、今日一番の演奏でした。

最後はお待ちかね、Emerson, Lake & PalmerをカバーするLachesis。今回の目玉はタルカス全曲演奏です。

The Score
「Fanfare for the Common Man」のイントロフレーズの後に、前回同様、Emerson, Lake & Powellのこの曲でスタート。ここでも出だしキーボードの音量がおとなしめでしたが(私の座席の位置のせいかもしれません)、1曲終わる頃にはバランスがよくなっていて安心。
Jerusalem
「今日一番短い曲と一番長い曲を続けてやります」と紹介があったうちの短い方。ここで今日初めてドラが打ち鳴らされて聴衆は大喜び。シンセの音づくりも完璧でした。
Tarkus
イントロのChoir音が重なってきて緊張が徐々に高まり、ドラムのカウントから一気に爆発的な5拍子の「Eruption」へ突入し、あの「Emersonの左手」がしっかり再現されて感動。「Mass」でシンセがミョ〜ンとポルタメントしたりリボン・コントローラー(先端にクラッカー付き!)が登場したり、「Battlefield」でGreg Lakeの暴挙と言われた(?)「Epitaph」が飛び出したりと、なりきり度は200%。ディストーション・ベースが超リアルな最後の「Aquatarkus」まで、まったく緩みのない演奏でした。
Lucky Man
みくに氏がアコギに持ち替えて、今回も「The Sage」のさわりの後にこの曲でほっと一息。
Karn Evil9 1st Impression
この曲もベースを弾いて楽しい曲の一つですが、オルガンの最初のフレーズをちょっとやったところで「ちょっと待って、やり直し」。機材にトラブルがあった模様ですが、気を取り直して2度目はOK。オルガンの派手なグリッサンドもギターの印象的なソロも健在でした。
Changing States〜America〜Rondo
お約束のメドレーの前に、再結成Emerson, Lake & Palmerの派手なインスト曲「Changing States」をかぶせて、いよいよクライマックスの2曲。リバーブ・クラッシュ、馬のり、ナイフ、逆サイドからの「Toccata and Fugue」とまったくの予定調和ですが、わかっていても決して飽きることがないパフォーマンスに、終演後聴衆から惜しみない拍手と歓声が送られました。

18時半のスタートで終了は22時半、存分に堪能した一夜でした。なお、毎度のことながら、機材の多い(キーボードが3バンドで15台、ギターとベースが10本。巨大なドラとチューブラーベルズ(パイプは2本だけだけど)を持ち込んだドラマーもいました)プログレバンドを3組もこなした会場・PAサイドの努力にも、拍手です。