新札

2000/12/02

初めて二千円札を手にしました。

これは、郵便局でお金をおろす機会があり、そのとき受付の女性局員が「二千円札でも……いいですか?」とためらいがちに聞いてきたので「いいです」と答えて手に入れたもの。申し訳なさそうに出されるお札、というのもお札にとっては気の毒な話ですが、日銀法に「日本銀行が発行する銀行券は、法貨として無制限に通用する」と書かれていながら現実には自動販売機などが対応できず「無制限」には通用していないのですから、致し方ありません。小渕恵三首相(当時)が1999年10月にミレニアムと沖縄サミットを記念して新札発行を打ち上げて産まれた二千円札。今年の7月19日の発行時にはスーパーやデパートなどが「二千円札記念セール」を企画し、景気回復の一助などとも持ち上げられたりしましたが、現時点ではなかなか流通がはかどらず、期待はずれに終わった(そもそも期待していなかった?)という評価が定着しているようです。

しかし、手にとってみたお札は決して悪い出来ではありません。表の守礼門と裏の『源氏物語』というとりあわせがミスマッチなのはさておくとして、裏面左側の『源氏物語絵巻』第三十八帖「鈴虫」にはつい見愡れてしまいますが、重ねられた詞書は以下の通り(印刷されているのは強調部分)です。

すゝむし

十五夜のゆふくれに仏のおまへ
に宮おはしてはしちかくなかめ
たまひつゝ念珠したまふわかき
あまきみたち二三人はなたてま
つるとてならすあかつきのおとみつ
のけはひなときこゆさまかはりたる
いとなみにいそきあへるいとあわれな
るにれいのたりたまいてむしのね
いとしけくみたるゝゆうへかなと

柏木との不義の罪により出家した女三の宮の住まう六条院へ、なおも執心を示して通う源氏。秋の野の風情に仕立てた庭に放たれた鈴虫を前に、歌のやりとり、琴の調べ。しかし、その前に源氏は柏木を悶死に追いやっているのですから、ここでの源氏はおそるべき二重人格と言えるかもしれません。そして絵巻の方は、自ら父帝の想い人・藤壷中宮に産ませた冷泉院からのお召しに応じ、月の宴で冷泉院と差し向かう源氏。その含意や如何?

一方、偽造防止のためのマイクロ文字や特殊発光インキ、お札を傾けると「2000」「NIPPON」の文字が浮かび上がる潜像模様、角度を変えると表面右上の「2000」の文字が青緑色から紫色に変わる光学的変化インキの採用など、ハイテクも惜しげなくつぎ込まれており、これで原価が千円札と五千円札の間というのだから大したもの。こうなれば二千円札の今後ますますの普及を応援したいところですが、発行元である日本銀行が以下のようなユルい説明をしているのを見ると、正直いって力が抜けてしまいます……。