化粧

2003/08/23

話題のLed ZeppelinのDVDを買おうか、とCDショップに入ったのですが、出てきたときに手にしていたのはなぜかKansasの2002年のライブDVD『Device-Voice-Drum』。ZepのDVDが置いていなくて、たまたま目にしたKansasに手が伸びたのでした。

アメリカンプログレハードの代表選手であるKansasは我々が高校生の頃にかなりの人気を誇り、武道館のライブ(Monolith Tour)には私も友人たちと連れ立っていった記憶があります。その後、ご多分に漏れずKansasもメンバーチェンジの紆余曲折があって、最近はオリジナルのラインナップからキーボード兼ギターのKerry Livgrenが抜けている(曲は提供し続けている)ほか、ベースが途中から参加したBilly Greerに代わっています。もともとのメンバー構成は、ドラム、ベースこそ1人ずつであるものの、ギターは専業のRich WilliamsとKerry、キーボードもKerryとSteve Walshが弾き、ボーカルはSteveとヴァイオリンのRobby Steinhardtがとるといった具合で、6人が組み合わせによってツインボーカル / ツインキーボード / ツインギターになる恐ろしいバンドだったので、1人抜けたくらいでは影響なさそうにも思えますし、逆に兼務の部分が大変そうにも思えます。

そこで実際に映像を見てみると、やはりリードボーカルのSteve Walshは2台のKurzweilシンセサイザーをかなりこまごまと(しかしほとんど手元を見ずに)弾きながら歌っており、ずいぶん忙しそうではありますが、しっかり原曲の雰囲気を再現しているのはさすが。しかし、このラインナップでのライブを新宿厚生年金会館などで実際に見たときには気づかなかった衝撃の事実が一つ!寄る年並には勝てず、Steve Walshはあの特徴的だった高音部が出せなくなっており、いくつかの曲(例えばきわめつきの代表曲「Carry On Wayward Son」など)でのサビのハイトーンは助っ人(?)のBilly Greerが歌っていたのでした。

ベーシストのBillyがボーカルに加わっているのはもちろんライブを見て気付いていたのですが、楽器を抱えているせいかあまりアクションも見せずにマイクの前に立つBillyを見て、私はうかつにも「ツインボーカルから3声のコーラスになって厚みを増したな」程度に思っていました。サビだけとはいえリードのラインも任されていて、もちろん抜けたベーシストの穴をきっちり埋め、しかもオリジナルメンバーより目立とうとはしないとは、まさに助っ人の鑑ではありませんか(ここでYesにいたBilly Sherwoodを連想したのは単にファーストネームが同じだからだけではありませんが、何しろ彼の場合は「いくつになっても一向に声が衰えないボーカリスト」や「担当楽器に関しては協調性皆無のギタリスト」をサポートしようとしたのですから、相手が悪すぎでした)。

本作は映像作品制作のための収録自体を目的としたスタジオライブで、ミュージシャンの動きもしっかり見え、もちろん楽曲も懐かしいヒット曲が中心。Kansasならではの凝ったアレンジ(またの名を「厚化粧」)はそのままですが、プレイヤーが1人少ないことでかえってすっきりした演奏になっています。ただ、ドラムのPhil Ehartがヘタになったかな?という印象なのはちょっと残念。変拍子の曲もそうとは気づかせないほどのスムーズなフレージングと素晴らしいドライブ感が彼の持ち味なのですが、このDVDでは妙にどたばたしたリズムでちょっといかがなものかという感じです。考えてみれば彼等も既に50歳の大台に乗っているはずで、特に肉体労働の色彩が濃いドラムとボーカルにその点の影響が現れるのはやむを得ません。「それにしては」という感嘆と「それにしても」という感慨をともに呼び起こされる、ちょっとほろ苦いライブDVDでした。