新月

2004/09/12

「日本最強のプログレバンド新●月の公式ライブアルバム」というキャッチコピーの『新●月 – ライブ1979』を購入。新●月のことは、ある理由があって名前だけは知っていたのですが、最近になってオープンリール録音されていたこのライブがCD化された(それまではオーディエンス録音のブートレグしかなかったようです)との情報が入ったので、期待と興味なかばでHMVに注文してみたものです。

新●月は、1970年代の終わりにビクターからレコードデビューしたものの、その活動期間は実質2年と短かったためデビューアルバムの『新●月』が事実上唯一の公式音源となっていたプログレバンドだそうで、このライブを聞いてみると、アンサンブル重視の演奏の上に(声も歌詞も)怪しげなボーカルが乗るというのが基本的なスタイルの模様です。また、半音音階の多用やシンセ&ベースの対位法的アプローチが楽曲に独特のカラーを与えており、バンド編成はボーカル・ギター・ベース・ドラムス・キーボード、というYesやGenesisと同じ正統派プログレバンドの構成で、このライブではさらにゲストキーボードが1人加わっていますが、ギターやキーボードが速弾きのソロをひけらかすという場面はほとんどなく、ギターソロはゆったりと艶のある響き、キーボードはほとんどオルガンやストリングス(メロトロンも)の白玉とリフという感じ。静かなパートが多くリズムセクションの演奏はそうしたところでは控えめですが、ときに見せる全開パートでのドラムスの演奏は見事なタイム感とダイナミズム、細かいスネア&シンバルワークがかなりイケていて、Alembicでのメロディアスなベースプレイも私好みです。そしてそれぞれの楽器の持ち味が最大限に発揮された20分に及ぶメドレー「赤い目の鏡〜殺意への船出パート2」は、プログレファンならずとも聴く者の琴線にぐっと迫るものがあって、私はこの曲だけループで何度も聴き返しているほど。一方、ボーカルはドラマティックな、長母音を強調する日本語らしい歌い方で、ちょっと音程が不安定に感じる部分もあり、聴く人によって好き嫌いが出るかも。そして写真を見るとGenesis時代のPeter Gabrielのようにシアトリカルに衣裳を替えていたようで、中性的なムードを漂わせたり奇怪なかぶりものをかぶったりと相当凝っています。

さて、ここまで書くと気になってくるそのメンバー構成は以下の通りです。

北山真 vocals
花本彰 keyboards
津田治彦 guitar, vocals
鈴木清生 bass
高橋直哉 drums
小久保隆 keyboards, vocals

ギターの津田治彦氏は先日来日したDavid Crossと共演したりしてその筋の人にはなじみがあるでしょうが、ここで注目したいのはむしろボーカルで、「北山 真」という名前にピンときたら、あなたはフリークライマー。そう、「開拓王」を自称する開拓クライマーにして、日本フリークライミング協会(JFA)の理事長、季刊「ROCK & SNOW」誌上でも随所に薮睨みの顔写真を拝むことができる、あの北山真氏です。上述した「ある理由」というのもこれで、私がクライミングを始めた頃に買った参考書の中に『フリークライミングのススメ』という小さな本があって、その著者である北山氏は子供の頃から大のスポーツ嫌い、ギターより重いものを持ったことのなかった私が、なぜか岩登りに夢中になってしまったとあとがきに書いており、その他の紹介文なども読んで北山氏がかつてはミュージシャンだったということは知っていたのですが、どういう曲や詞を書き、演奏していたのかはこれまで知る機会なし。しかも、ここに引用した文章から私はてっきり北山氏がギタリストだと思い込んでいたのですが、まさかコスプレ(?)までこなすビジュアル系ボーカリストだったとは……。

というわけで、このCDはプログレッシヴロック愛好家はもとよりフリークライマーの方々にもお勧めの1枚。この秋は小川山のキャンプ場のあちこちで新●月の曲が流れるかもしれません?