池図

2005/06/06

本を買ったら、たいていの場合、帯はすぐ捨てるのですが、入江敦彦氏の『イケズの構造』の帯は、けっこう笑えるのでそのままとってあります。

「京都は愛されていますが京都人は嫌われています」という強烈な一文で始まるこの本。何かの雑誌にちらとのっていた広告で表紙の絵が面白そうだったのでAmazon.co.jpで取り寄せたのですが、中身も最高。

京都人の人の悪さを示すエピソードに有名な「ぶぶづけ伝説」というのがあって、京都人を訪ね、帰り際に「ぶぶづけ(お茶漬け)でも、あがっておいきやす」と引き止められたので厚意を受けることにしたら礼儀知らずと誹られた、というものですが、これは筆者によればフィクションなんだとか。しかし、それでも京都人の口から発せられる言葉にはある種の「裏」や「毒」があり、そのことが京都人=イケズという等式を公式化しています。この本は、京都ネイティブの筆者が、そうした京都人のメンタリティをさまざまな実例で例証しつつ、長く日本の文化の中心でありながら政治的には「よそさん」の支配下に置かれ続けてきた京都の歴史が生み出した、京都人の処世の知恵(のなれのはて?)であるイケズのありようを面白おかしく説明したものです。その分析(?)はもちろん面白く、独特のやわらかい(しかも縦横に引用がほどこされた)文体が読みやすい上に、途中光源氏に現代京都弁をしゃべらせるところなど抱腹絶倒。

私にとっては、ひさしぶりに京都弁の世界にひたれたのがけっこううれしく、「年とったはる」「ちゃっちゃと仕舞いよし」「……に見えますえ」といった京都弁独特の言い回しに懐かしいものを感じたり、「遠い遠い」「早よ早よ」といった畳語(形容詞を重ねる)に関する記述に深くうなずいたり。もっとも、私の(京都時代の)職場ではいろんなルーツの言葉が飛び交っていて、どこそこへ「○○しなよ」を「○○しいさ」と言うバンカラな女の子に対して他の京都人は「あれはほんまの京都弁とちゃうからマネしんといて」とくさしたりしていたし、敬語っぽい「はる」(しかし目上だけでなく人の飼い犬にも使ったりしていましたが)や文末の「よし」はよく聞くものの、「え」をきれいに使う人はごく限られていたから、なんとも難しいもの。

さて、帯の「戦慄の京都人ルーレット」の答、正解は「D」。Aは単に会話の口火を切るときのきっかけづくり、Bは帰ろうとする客に一応の心配りを見せるポーズ。Cが凄くて、「喉乾きましたなあ」で疲れを訴え、「コーヒーでも」でもうどうでもいい、という心境になっていることを伝えているから、その真意は「もうさっさと切り上げて帰ってくれ」なんだそうです。恐ろしい……。