百聞

2005/11/13

Emerson, Lake & Palmerの『Beyond the Beginning』。これには「百聞は一見に如かず」を痛感させられました。

まずDisc1は、「Before the Beginning」と題されたセクションで3人のEmerson, Lake & Palmer結成以前のキャリアが紹介され、ギタリストがいる4人NiceでのKeithの「America」やハイド・パークで「21st Century…」を披露するKing Crimson(ただし音はスタジオ盤をかぶせたもの)のGregがいずれも若々しいですが、なんと言ってもぶっとばされるのはCarl Palmerがドラムを叩いているThe Crazy World of Arthur Brownのビート・クラブ。だいたいビート・クラブの映像はサイケなものが多いのですが、これはもう極めつけ。シュールな仮面をかぶり変幻自在なボーカルワークと奇怪な振付けで踊りまくるArthur Brown。ちなみにCarlも仮面をかぶっていて素顔がわかりません。

……それはさておき、Disc1の本編「ELP in Pictures」では彼らの事実上のデビューライブとなった1970年ワイト島での「Rondo〜Great Gates of Kiev」からおそらく3人での最後のツアーとなった1997/98年のツアーにおける「Touch and Go」までがごった煮のように収録されていて、この間にGreg(それにKeithも)がどれだけひどく容貌を変遷させてきたかがはっきりとわかります(それに対してCarlは本当に変わらない!)。内容も気合の入ったライブ映像からテレビ番組での口パクまでさまざまで、後者では「Tiger in a Spotlight」で本物の虎がステージの中央に鎖でつながれ、3人がそれを囲むようにして演奏(の真似を)しているのですが、明らかに虎の方が怯えているのが笑えます。そして「百聞は一見に如かず」と書いたのはミラノでの「Hoedown」の強力な演奏。イントロで出てくるシンセサイザーのサイレンのような音は、てっきりポルタメントを効かせて上下2音を弾いているのだろうと思っていたのですが、映像で見るとKeithは単音しか押さえていません。ということはおそらく、ADSRをVCOにかけてあの効果を出しているのでしょう。そうであれば、上行(Attack)と下行(Release)でピッチが変わる速度が違うのもうなずけます。また、彼らのライブレコード『Ladies and Gentlemen』でのCarlのドラムソロで両手がふさがっているはずなのに鐘の音が「カン、カン」と鳴っているのが不思議だったのですが、これは鐘からぶら下がった紐をCarlが口にくわえて引っ張っていたということを初めて知りました。

Disc2のメインは1974年のカリフォルニア・ジャムの映像。この日はDeep Purpleとのダブル・ヘッドライナーで、Deep Purpleの方の映像はずいぶん前からLDで保有していました(Ritchie BlackmoreのStratocasterによるカメラ破壊が有名)が、続いて行われたEmerson, Lake & Palmerの映像は初見。全7曲が一部編集された姿で収録されていますが、最も充実した演奏を堪能できるのは「Karn Evil 9 – 3rd Impression」でしょう。4台のシンセサイザーと2台のHammond、それにクラビネットで合計9段のキーボードに囲まれた要塞系のセットの中で刺激的なフレーズを繰り出すKeithに、カメラがかなり近いところまで寄ってくれているのがうれしくなります。さて、この「4台のシンセサイザー」が問題で、客席に向かって右側のモジュラータイプと反対側のMinimoogは違和感ないのですが、客席側にセットされたシンセサイザーが2段鍵盤、しかも下側はポリフォニックのようです。これは何だろう?と調べてみたら、Keithのオフィシャルサイトに答がありました。

(Q) and Keith still has the Lyra?

(A) Yes, and it still is working perfectly. The Lyra and the Apollo were Moog prototypes – along with Taurus Pedals. Together they all became the Moog Polyphonic Ensemble or Constellation. That’s what he used on Cal Jam or if you’ve seen any of the “Brain Salad” shows. He played “Benny the Bouncer” and “Jerusalem” on it and he also used it in “Third Impression” for the horn lines. So the Polyphonic Ensemble was really three units. The top was the Lyra, the polyphonic Apollo on the bottom, and the Taurus pedals on the floor.

そして別のところで見つけた画像がこれ。ちなみに上段のLylaの方は、ちょうどキーボード・マガジン12月号のモーグ博士追悼記事の中に写真が載っていました。

これらは量産化前にプロジェクトが凍結になったものの、Lylaはその後のMicromoogに、ApolloはPolymoogに発展していったそうです。Keith EmersonがMoog社といかに強く結びついていたかを示すエピソードと言えるかもしれません。

他にも、3人がスタジオでKarn Evil 9の第2印象を試行錯誤しながら作り込んでいく映像(煮詰まったときのCarlのやんちゃぶり!)が非常に興味深く、また、3人が出場したカー・レースの映像、先日亡くなったボブ・モーグ氏のインタビュー、3人が語るバンド史なども納められていて、払ったお金だけの価値は十二分にあったかなという感じです。