惑星

2007/04/26

この1週間の通勤途上で読んでいた『惑星学が解いた宇宙の謎』(井田茂)は、惑星系の起源に関わる理論をわかりやすく解説した新書サイズの読みやすい本。これが、すこぶるつきで面白く読めました。

全体の流れは、最初に宇宙論の到達点を概観してから、太陽系形成の理論、地球型惑星の生成、木星・土星と天王星・海王星の成因、そして太陽系外惑星の探索を経て、系外の地球型惑星探索の動向へと連なっていきます。面白く読んだポイントをいくつか紹介するとこんな感じです。

  • 太陽系形成の標準モデルでは、太陽の周りの円盤ガスからまず微惑星が無数に生まれ、それが衝突合体を繰り返して火星サイズの原始惑星を作り出す(水星と火星は原始惑星そのもの)。その原始惑星がさらに衝突を重ねて、地球・金星や巨大氷惑星(天王星・海王星)、さらに巨大ガス惑星(木星・土星)のコアをかたちづくります。そのことに要した時間は、たったの数千万年。
  • 月は、原始地球に火星サイズの原始惑星が衝突した衝撃(giant impact)で破壊された原始惑星のマントル部分が地球周回軌道に乗って集積したもの(なので月にはコアはない)。その集積に要した時間は、なんと1カ月から1年。この間に地表から空を見上げたら、原始惑星の破片が無数に宙に浮かんでいる摩訶不思議な光景を見ることができたでしょう。もっとも、そのとき地表は衝突のエネルギーでマグマオーシャンと化していたはずですが。
  • 太陽系外の惑星には、楕円軌道惑星やホット・ジュピター(中心星のすぐ近くを回る巨大ガス惑星)、それらの組み合せといった多様な形態があって、「惑星の動物園」(planet zoo)と呼ばれています。その原因は、惑星系を形成した円盤ガスの質量、そして組成が関係している可能性があります。宇宙は生成とともに徐々に重元素の量を増やしてきていますから、我々の太陽と同時期(宇宙ができて80〜90億年後)の円盤ガスの組成から太陽系型の惑星系が生まれるのだとしたら、宇宙のあちこちでほぼ同時期に地球型惑星が、そして生命が生まれているかもしれません(し、一斉に滅びの時期を迎えて宇宙は死の静寂に戻るのかもしれません)。
  • 太陽系の終焉は、今から65億年後。太陽は水素を燃やし尽くして赤色巨星となり、内惑星のいくつかを呑み込みます。そして80億年後には、ヘリウムの突発的な核融合により太陽の外層部は吹き飛び、残された中心部は白色矮星となって徐々に冷えていきます。その頃には、アンドロメダ銀河が衝突し、銀河系全体が激動の時代を迎えます。

こうしたスケールの大きな話の合間では研究者気質のあれやこれやがさらりと紹介されていて、とにかく研究が楽しくてたまらないという様子に、読んでいるこちらもうれしくなってきます。

ところで、太陽系では巨大ガス惑星は幸いにして(?)二つだったので各惑星は今では安定した円軌道に収まっていますが、これが三つ以上あった惑星系では、巨大ガス惑星がお互いの引力で振り回し合って、どちらかが中心星の引力を振り切って系外に飛び出してしまい、残った惑星は楕円軌道を描くことになるのだそうです。ということは、あてどもなく虚空を飛び続けている巨大ガス惑星が宇宙のあちこちにいるというわけです。古典SF『地球最後の日』(フィリップ・ワイリー&エドウィン・バーマー )はそうした放浪惑星が地球に衝突するというお話でしたが、しかし現実には、この広大な宇宙空間でそうした星が他の惑星仲間に出会うチャンスは、まずないのでしょう。生みの親である中心星にも兄弟惑星たちにも見捨てられて、極寒の恒星間空間の数十億年の旅を、いつ終わるという望みもないままに彷徨い続ける孤独な惑星。

……寂しいだろうな。