横笛
2007/09/11
知人のピアノ調律師ありか先生のお誘いで、彼女の友達である石井陽子さんのフルートリサイタルをすみだトリフォニーホールに聴きに行きました。父君の石井啓一郎氏がヴァイオリニスト、母上の啓子さんがピアニスト、2人のお兄さんはヴァイオリン製作者と画家という芸術一家にあって、陽子さん自身もプロのフルート奏者として活躍中だそうです。
開場直後の小ホールに入って、さてどこに座るのがいいのかとひと思案の後、指づかいがよく見えそうな前から3列目の左寄りに席を占めましたが、終演後に合流したありか先生の話では「すみだトリフォニーは(音響特性が)微妙。でも、真ん中より後ろの方が音がいい」。でも、前の方に座って奏者の息づかいを身近に感じながら聴けた今回の座席も結果的には悪くありませんでした。
予定の開演時刻をわずかに過ぎて、ピンクのドレスのとてもチャーミングな陽子さんと、濃いブルー&グレーのドレスの啓子さんが下手から登場。最初に軽く音を合わせてから始まったプログラムは以下の通りです。
- 夢・小さなワルツ(A.カプレ)
- 三つの小品(P-0.フェルー)
- Bergerre captive
- Jade
- Toan-Yan
- フルートとピアノのためのソナタ(P.ゴーベール)
- Modere-Allegretto vivo
- Lent-Allegretto moderato-Tempo primo
- Allegro moderato
- 小組曲(H.ビュセール)
- En Sourdine
- Valse lent
- Vielle Chanson
- Scherzetto
- フルートとピアノのためのソナタ(C.フランク)
- Allegretto ben moderato
- Allegro
- Recitativo-Fantasia
- Allegretto poco mosso
カプレの曲にはドビュッシーの雰囲気が、フルートの独奏によるフェルーの曲にはオリエンタルな旋律が感じられましたが、私自身がぐっと曲の中に入って行けるようになったのは、ゴーベールが師の追悼のために作曲したという「フルートとピアノのためのソナタ」から。印象的なピアノの旋律で始まる第一楽章もしっくりきましたが、とりわけ第三楽章の、高音域でのピアノのアルペジオに乗って奏でられるフルートのフレーズに引き込まれてしまいました。
休憩をはさんでビュセールの「小組曲」4曲は、いずれもシンプルですがなんだか懐かしいメロディが優しく楽しい曲。三曲目の「Vielle Chanson」には、プログラムに書いてある通り「笹の葉さ〜らさら〜」のフレーズが中間部で顔を出します。そしてフランクの「フルートとピアノのためのソナタ」は特に素晴らしいものでした。この曲ではフルートとピアノが対等にわたり合う感じで、第一楽章ではピアノのみで奏される主題があり、第二楽章は技巧の応酬となり、終楽章はカノン風に音が重なり合っていきます。演奏終了後の拍手もひときわ熱のこもったものでした。
アンコールは、エルガーの「朝の歌」と、複雑に編曲された「夕焼け小焼け」。アンコールに入ったところで初めて陽子さんのMCが入りましたが、堂々とした大きなフレージングの演奏とは打って変わって、まだ初々しい感じの口調でした。
ところで、私は管楽器というのは昔から大の苦手で、中学生のときには学校の音楽の授業で必修になったピッコロで音が出る前に酸欠で意識を失いかけたことが何度もありますし、高校生の頃は父の手ほどきで尺八に手を出したこともありますがまるでモノになりませんでした。そんな私だから(?)フルートにはこれまで触ったこともないわけで、ただ何となく優しい穏やかな楽器というイメージしか持っていなかったのですが、実際に目の前で繰り広げられたのは、低音からハイトーンまで&ピアニシモからフォルテシモまでの強烈なダイナミズムと厳しいブレス、ロングトーンでの微妙なトレモロやハーモニクスと素早いパッセージでの強靭なタンギングなどなど、演奏者の生身が楽器と一体となって音を生み出し、ホールを鳴らしていく圧倒的な存在感。このリサイタルのおかげで、フルートという楽器に対する認識を完全に改めることになりました。