開手

2008/03/20

名手として世にその名が知られており、自分も長年にわたって関心を持ち続けてきたのに、不思議と縁がなかったミュージシャンというのはいるものです。

自分にとっては、Billy Cobhamもその1人。John McLaughlinのThe Mahavishnu Orchestraから独立し、フュージョンシーンの先駆けとしてごついドラムセットをダイナミックに操る彼の姿を、高校生だった自分は音楽雑誌の立ち読みでよく見掛けて、何となく凄そうだなと畏敬の念を持っていたのですが、実際に彼の音楽に触れる機会はこれまでありませんでした。

転機の一つは、2005年のJeff Beckの来日公演でとりあげられた「Stratus」です。このときのVinnie Colaiutaのドラミングは本当に凄く、これが元はBilly Cobhamの曲だと知ってオリジナルをちゃんと聴いてみたいと思うようになったのですが、そもそもJeff Beckがギター・インストに転向することになったきっかけがこの「Stratus」を収録したBilly Cobhamの初リーダーアルバム『Spectrum』(1973年)だと言われています。

そしてもう一つの契機はToto。「TotoとBilly Cobhamとの間にどういうつながりが?」と思われるかもしれませんが、『Spectrum』でうねるようなベースを弾いている人物こそ、現在Mike Porcaroに代わってTotoのツアーに参加しているLeland Sklarその人であり、ついでに書けばTotoの現ドラマーSimon PhillipsもBilly Cobhamと同じくオープンハンド奏法の使い手であるという共通項があるのもあながち偶然とは思えません。

こんな具合に、いわば機が熟したかたちで手に入れた『Spectrum』では、もちろんBilly Cobhamのパワフルかつ繊細なドラミングを堪能できますし、ギターはTommy Bolin(後にDeep Purple。またOlivia Newton-Johnの恋人としても浮名を流したと記憶しています)、キーボードはやがてJeff Beckとも組むことになるJan Hammer。一部の曲ではRon Carterのアコースティック・ベースも聴けて、これで内容が悪かろうはずがありません。