革命

2009/01/30

ここ3年ほど、中南米への旅行を重ねて訪問地の歴史を学ぶうちに、中南米諸国においてスペインの地位を襲った米国による支配拡大の歴史、とりわけ第二次世界大戦後の中南米諸国を経済的にも政治的にもほとんど直接的に支配した米国資本及びCIA、さらには1990年代にIMFが主導した新自由主義政策パッケージの強制が中南米社会にもたらした悲惨を知るようになり、それらが現在の中南米諸国の反米左派化の流れに連綿と続いていることを感じて、その源流にあるキューバ革命についてもどこかで勉強したいと思うようになっていました。

そんな中、渋東シネタワーで見た『チェ 28歳の革命』(スティーブン・ソダーバーグ監督 / ベニチオ・デル・トロ主演)は、チェ・ゲバラの生涯の断片を二つの視点から描く連作映画の前編。評判を呼んだ『モーターサイクル・ダイアリーズ』(ウォルター・サレス監督 / ガエル・ガルシア・ベルナル主演)は彼の若き日の南米放浪旅行を描いた作品ですが、こちら『チェ 28歳の革命』は、メキシコでのフィデル・カストロとの出会いからキューバでの戦闘(1956-1959年)、そしてキューバ危機直後のニューヨークでの国連総会演説(1964年)と同年にハバナで行われた米国人女性ジャーナリストのインタビューを扱っており、しかもこれら複数の時制の間を自在に行き来します。そのため、ある程度ゲバラの事績について予備知識を持っていないと、観ているうちに自分の現在地を見失ってしまうかもしれません。それでも、戦場でも本を手放さないチェ、兵士に疲れているときでも算数の学習を求めるチェ、脱走して略奪を行った兵士を射殺するチェ、車を奪ってドライブする兵士に持ち主に返せと厳しく命じるチェ、そしてインタビューでのやりとりと国連総会の演説で圧倒的な知性を示すチェの姿を、ベニチオ・デル・トロが(さすがに28歳には見えませんが)迫真の演技で見せており、とりわけ国連総会の演説を祖国か、死かと締めくくって演壇を下りるチェに対して議場から起こった拍手には、こちらも思わず拍手したくなったほど。字幕ではなく、スペイン語での彼の演説をダイレクトに理解できればもっとよかったのですが……。

もっとも、マルクス主義者としての彼の思想にまで踏み込んだ描写はほとんどなく、というより彼の心理描写やそもそも彼の生い立ちに関する説明が一切なく、言ってみればある時点の彼を一歩離れた場所からジャーナリスティックに追った映画、と見ることもできます。そのことは、上述の女性ジャーナリストによるインタビューが狂言回し的にストーリーを牽引していること、そして続編の『チェ 39歳 別れの手紙』がビスタサイズでチェ本人の視点を強調するのに対し、この『28歳』はシネマスコープで上映されることでも示されています。

何と言うか……非常にストイックな映画でした。