農協

2010/02/24

2008年に予定されていたYesの結成40周年記念ワールドツアーに参加予定だったボーカリストのJon Andersonが、病気のためにツアーに参加できず治療に専念していたのは周知の通り。その後、Jonはどうしているのかなと折々に思っていたのですが、偶然彼のウェブサイトを見たところ、今ではすっかり回復してソロツアーもこなしている様子です。よかったよかった。しかし彼の近況を伝える動画を見ると、相変わらずあの声は健在ながらもすっかり好々爺になってしまっていて、知らない人が見たらこのフォークソングおじさんがあの偉大なバンドYesのボーカリストとして、巨大なライブシステムの中央に君臨していた人物であるとはとても思えないでしょう。

そんなわけで、「本当の」Jon Andersonの軌跡を辿りたい場合はYesの膨大なアルバム群を渉猟しなければならないのですが、手っ取り早くYesの歴史を一望したいなら、ライブCD-BOX『The Word Is Live』(2005年リリース)がおススメです。ただし、これからYesを聴こうという初心者向けではなく、ある程度Yesの歴史に同時代感覚を持っているファン向け。つまりはおじさん向け、ということ。

このDVDの内容はYesの1970年から1988年までのライブ音源(ほとんど未発表)をCD3枚に時代順に収めたもので、Disc1はTony Kayeがキーボードを弾いている時期(ということはすなわちBill Brufordがドラム)のライブが8曲。Disc2はPatrick Moraz参加時が4曲、Tormato期が5曲(うち1曲は5曲のメドレー)、Disc3はやはりRick Wakemanが参加しているものが2曲と、Drama期が3曲、90125期が4曲。

この解説で内容が想像できないようであれば、このライブ集を買う資格はありません。逆に、これを読んで「おおっ!」と思った人には、間違いなく十分な満足を与えてくれます。意外にも傑作とされる『Fragile』『Close to the Edge』の時期が含まれていませんが、そちらは定番の『Yessongs』を聴いてほしいということなんでしょう。

収録曲もさることながら、BOXにまるでペーパーバックのように組み込まれたブックレットには、各時代の美しいライブ写真が豊富に含まれ、Greg Lakeをはじめとするさまざまなミュージシャンたちの寄稿も読み応えあり。RushのGeddy Leeの次の一文には、笑えます。

To my mind, Yes may be the single most important of all the progressive rock bands, a group that influenced my desire to write music and helped in no small way to shape my love for playing complex rock.

聴きどころとしては、まずDisc1からは、全曲……というと身もフタもないのであえて絞ると、後に「Starship Trooper」のカントリーパートで使われることになる歌詞がそのまま出てくる「For Everyone」と、Chris Squireがベースとボーカルで長いソロをとる「It's Love」。特に後者は、タガがはずれたChrisの暴走ぶりに思わずニヤリとしてしまいます。Disc2では、Patrick MorazのMinimoogによるソロが冴えわたる「Sweet Dreams」。これは、この時期のライブを収録した映像作品『Live 1975 At Q.P.R.』に含まれていたのと同じテイクですが、この映像作品中でも最も素晴らしい演奏だったので、こちらのCDでいつでも手軽に聴けるようになったのはうれしい限り。Disc3では、Trevor Hornがボーカルをとっている3曲(うち2曲はスタジオ盤未収録)がマニアックな興味を引きます。なるほど、Trevorはがんばってはいますが、これでは演奏中に怒った客がモノをステージへ投げ入れたという言い伝えもむべなるかな。

そして、このThe Buggles - Yesの3曲を除くほぼ全ての曲で、どの時代を通じてもJon Andersonはまったく色あせることを知らずにあの独特のヴォイスを聴かせ続けているということが、このCD-BOXの最大のポイントでしょう。

なお、この日記のタイトルが「農協」なのはなぜかと言えば、Jon Andersonの話題だから……。