密着
2014/07/26
富山湾から駿河湾まで、北・中央・南アルプスを縦走しつつ8日間で駆け抜ける「トランスジャパンアルプスレース」。2012年8月に開催されたこの過酷なレース(第6回)の模様はNHKで同年10月に放送されたのですが、1時間余りの時間枠では収めきれなかったさまざまなエピソードを盛り込んで一冊の本にしたのが、この『激走!日本アルプス大縦断』です。これを私は旅行のお供にとバッグに入れておいたのですが、羽田からパリへの飛行機の中で読み通してしまいました(よって明日からはただのお荷物……)。
本書の帯によるTJARの紹介文は、次の通りです。
- 行程:富山湾→(北・中央・南)アルプス縦断→駿河湾
- 距離:415km
- リミット:8日間以内
- 累積標高差:27,000m(富士山登山7回分)
- 宿泊先:山小屋は不可。ツェルト(簡易テント)持参
- 幻覚、幻聴:ほとんどの選手が体験
- 死亡保障のついた山岳保険加入を推奨
- 参加選手:男女合わせて28名(2012年大会)
- 賞金、賞品:一切なし
このレースの取材に挑んだNHKスペシャル取材班は、ロードクルー、山岳クルー、ランニングカメラマンクルー、空撮クルーと合計18クルーに分かれ、出場選手に寄り添ったり、付かず離れずの距離を保ったりしながら、ここぞというタイミングで選手の内面に切り込んでいきます。本放送及びそのDVD化作品では、5日間6時間24分でゴールしたトップの望月選手にフォーカスした編集を余儀なくされたようですが、本書では、そのようにして収集された選手一人一人の葛藤が丹念に描かれており、完走した19名(内1名はルール抵触のため参考記録扱い)だけでなく、途中で無念のリタイアを余儀なくされた9人のすべてに対しても十分な目配りをしています。
このようにレースそのもののドキュメンタリーとしても面白いのですが、同時に、困難を極めた取材エピソードの数々が、本書の内容に膨らみを与えています。取材班がトップを行く選手をGPSでも見つけられなくなって裏をかかれたり、雷雨の中を機材を守りつつツェルトビバークでしのいだり、疲労のあまり正気を失って思いがけない行動をとり始めたランナーを呆然と見守るしかなくなったりと、その過酷さは予想以上でした。NHKスペシャル取材班の壮挙に、拍手。山岳ランに少しでも関心がある人は必読、と言えるでしょう。
なお、1年おきに開催されるTJARの今年=2014大会は、8月9日から17日まで開催されます。GPSでとらえられる選手の動きを、公式サイトで応援できるかもしれません。