倒産

2015/10/23

筒井恵『会社の正しい終わらせ方』を読了。この本を買ったのは半年前のことで、なぜこれを買ったのか記憶が定かではないのですが、おそらくAmazonで他の本を買ったときにレコメンドされ、一風変わった表紙(イラストは著者の娘さん)に惹きつけられてつい購入ボタンをクリックしたのだと思います。

中小企業診断士として、企業の再生や幕引きに数多く立会い、同時に夫の会社の倒産も経験した経歴の持ち主である著者が、経営者の再起=リバイバルに向けたアドバイスと提言を行うというのが、本書の内容です。薄い本なので情報量としては決して多くはありませんが、最初の章で夫の会社の倒産の経緯を家族の心理にまで踏み込んでリアルに描いた後、各種支援制度を解説し、そして著者がコンサルタントの立場で直接関わった三つのリバイバル事例を紹介しています。

本書がユニークなのは、企業の再建を目指すことに眼目があるのではなく(もちろんそれに越したことはなく、これを著者は「再生」と呼んでいます)、企業は終焉を迎えるものの経営者はその後の人生を前向きに歩めるようにしなければならない、という目線で書かれている点です。著者が夫の会社を倒産させることを決意したのもこれ以上会社を存続させようとすることは、夫にとって命に関わると判断したからですし、終盤の倒産事例の解説の後のまとめの章でも、傷を深めてギリギリまで追いつめられてしまわないうちに、再チャレンジの場に向かうべきであって、そのためには「まだなんとかなる」という思いを捨てる必要があると説いています。経営者がリバイバルを決断しさえすれば、後は著者のようなコンサルタントや弁護士が各種制度を駆使しながら手順を尽くしてゆくから任せなさいということでもあるのでしょう。

ともあれ、とても読みやすい本でした。経営者ならずとも、社会人であれば基礎教養として読んでおくべき内容だと思われます。

ちなみに、私も長年法務担当をしているので、倒産にまつわるいろいろな事例を体験しています。まっとうな事業をしていた企業が左前になり、詐欺集団の「技術指導」を受けて取込み詐欺に手を染めた事案では、代金回収のために先方に乗り込みましたし、元同僚がスピンアウトして立ち上げたIT企業が突如倒産した事案では、債権者として債権者説明会に出席し、独立直後はすこぶる羽振りのよかった元同僚の見る影もなくおどおどした姿にショックを受けたりもしました。また、自分が勤める会社の財務状況から事業継続が不可能と判断して経営陣に法的整理の決断を迫ったこともあり、このとき弁護士の力を借りて進めた民事再生手続は法務担当としての貴重な経験となったのですが、これらを通じて実感したのは、破産手続というのは、再生型にせよ清算型にせよ、企業の死ともろともに人が死ななくてもすむようにするための制度だという理解であり、だからこそ事業が危機に瀕したとしても経営者は絶対に手が後ろに回るようなことをしてはならないという確信です。

そういう点からすると、自分にとっては本書はとりたてて新しい知見を与えてくれるものではないものの、その代わりにいたく共感を覚える本ではありました。