海賊

2016/03/11

昨年6月にYesのベーシストChris Squireが死んで、一つの時代の終わりを感じたところでしたが、今度はKeith Emersonが亡くなったという報らせが入ってきました。しかも、自宅の居間で銃で自分を撃っての自殺。いったいどうしてそんなことに……。

私がEmerson, Lake & Palmerの音楽を知ったのは中学から高校に上がる頃で、最初に買ったレコードは3枚組ライブの『Ladies and Gentlemen』(1974年)だったと記憶しています。

キーボードのKeith Emerson、ベース・ギター・ボーカルのGreg Lake、ドラムのCarl Palmerの3人で作り出す濃密な演奏に驚愕し、そこから遡るようにしてスタジオ盤を聴き出したのですが、友人たちの間では組曲「Tarkus」と三部構成の「Karn Evil 9」が人気を二分していたように思います。

これが「Tarkus」の冒頭の部分。火山の火口の中から怪しい気配が広がり始め、そして遂に噴火。その溶岩と噴煙の中から怪獣タルカスの誕生の叫び声が聞こえてくる(下の絵の左上部分)という情景が見事に描き出されています。

この叫び声の部分にも用いられているように、Kiethと言えばMoogシンセサイザーがロックの世界におけるリード楽器として活用できることを証明してみせた先駆者であると言えるでしょう。冒頭の写真でも見られるように、1970年代前半のKeithの写真の中には必ずと言っていいほどモジュラータイプのMoogが聳え立っていました。

かたやこんなふうに、オルガンにナイフを突き立てたり馬乗りになったり下敷きになって弾いたり、あるいはピアノごと回転したりといった派手なパフォーマンスも彼のライブの定番でしたが、決してギミックではない演奏テクニック(特に左手の強さは有名)と、それ以上にクラシックやジャズなどジャンルを問わない幅広い知識とセンスに裏打ちされた高度な作曲能力は、他のロックキーボード奏者の追随を許していませんでした。

上述の『Ladies and Gentlemen』で頂点を極めてしまったKeithたちはしばらく活動を休止し、3年後の1977年にKeithのソロプロジェクトをバンド形態で発表する形となった『Works』をリリースしましたが、商業的には失敗。最後に(おそらく)契約上の義務から『Works vol.2』と『Love Beach』(1978年)をリリースして解散しました。『Love Beach』は、今から冷静に振り返ればそれほど悪い作品ではなかったのですが、何しろそのタイトルと、ジャケットに採用された南国バハマ(レコーディングを行った地)で健康的に日焼けした3人の笑顔の写真にショックを受けたことを思い出します。

KeithはEmerson, Lake and Palmerとしては全盛期の1972年と再結成後の1992年・1996年に来日していますが、私自身がKeithの姿をじかに見たのはずいぶん遅く、2005年のこと。さらに2008年にも自身のバンドを率いてのライブを観ていますが、どれだけデジタルシンセサイザーを導入していても、ステージ上には必ずMoogとオルガンの姿がありました。そして、今年4月にも来日の予定があり、相変わらずの精力的な活動ぶりに感心していたところへ入ってきたのが、今回の訃報です。

Keithが自殺をした動機はもちろんわかりませんが、彼らしいと言えば彼らしい最期の選び方のような気がします。ともあれ、個人的には彼が作曲した中でベスト曲と思っている「Pirates」を聴きながら、Keithの冥福を祈りたいと思います。