物語

2019/11/22

國廣正氏『企業不祥事を防ぐ』を読了。

このジャンルの本はこれまでにもいろいろ読んでいますが、著者のネームバリューと先月出たばかりという鮮度とに期待して手にとりました。

その章立ては、こんな感じです。

  1. 過剰規制から「ものがたりのあるコンプライアンス」へ
  2. 日本型企業不祥事の根本にあるもの
  3. これからのコンプライアンス
  4. コーポレートガバナンスの実際
  5. 危機管理実務の最前線
  6. 企業のグローバル展開とリスク管理

これらの章立てにおけるさまざまな文脈の中で取り上げられた不祥事は「三菱自工燃費不正」「神戸製鋼所品質データ改ざん」「商工中金危機対応融資資料改ざん」などなど。事例自体には新鮮味がありませんが、そこから理念の欠如と同調圧力が不正を生み出す構図を明らかにした上で、《「現場がコンプライアンスに沿った行動を行うことができる環境」を作らないままコンプライアンス施策で屋上屋を架すことは現場を疲弊させるだけでむしろ逆効果であり、経営者の怠慢・アリバイ作りに過ぎない》と辛辣な警鐘を鳴らし、コンプライアンスには企業理念に根ざした「ストーリー」に基づく実践が必要、それこそ経営そのものだと説いています。確かに。

また、単に不正事案を紹介するだけではなく、不正ではないものの危機管理に失敗した事例として、今年6月に起きた「カネカのパタハラ」(育休復帰→即転勤→退職→妻がTwitterに投稿)にも詳細に言及している点に価値があります。本件は、近年社会問題にもなっているSNS上の批判に対し、直接の当事者を相手とする法律問題としてアプローチしたために「炎上」を招いてしまった事例で、著者の分析は至極もっともなのですが、これに関しては今どきの企業がこうした社会の反応を予見できないとも思えないので、何らかの事情に基づく割切り(リスクテイク)があったのでは?という気もします。人事労務管理では公平性の確保も必要で、個別の事情への配慮には限界があるからです。ただ、株価下落や内定辞退といった一時的な代償の大きさは想定外で、そここそが第三者である我々にとっての本件からの学びとすべき点かもしれません。

もちろん事例の羅列ばかりではなく、リスク認識、コーポレートガバナンス、危機管理という一連のプロセスにおけるハウツーの解説もなされ、それらの中に「コンダクトリスク」や「SDGs」といった旬なキーワードを織り込んで飽きさせないところが巧みです。

そして最終章、グローバル展開におけるリスク管理の章も興味深く読みました。この領域での典型的なリスク事象としてFCPAの域外適用が紹介されているのはもちろんですが、グローバルNGOとの関わり方についても紙数を費やしています。特に、サプライチェーンの上流において生じる「現代奴隷(Modern Slavery)」問題を念頭に、NGOをリスクアセスメントと改善策検討のためのパートナーとして前向きに位置づけるべきと論じる点は新鮮に思えました。

盛りだくさんでありながらコンパクトで読みやすく、久々に「読んでためになった」と思える本でした。