丘泊

コロナ前には夏から秋にかけて勝沼にワインとぶどうの買付けに赴いていたのですが、しばらく間が空いて今回は久しぶりの勝沼詣で。買付けもさることながら、前々から気になっていた甲州市勝沼ぶどうの丘に泊まってみようというのがこの旅の主目的です。

2022/08/28

……と言う舌の根も乾かぬ内にワインともぶどうとも関係ないところに行くわけですが、まずは甲府駅北口近くにある「小作」さんでほうとうをいただきました。山梨に来たらやはりほうとうは外せません。

13時過ぎに店の前に着いてみるとそこそこの待ち行列。しかしちょうど昼飯どきの終わりとあって回転が良く、30分余りの待ち時間で店内に入ることができました。メインは豚肉ほうとうですが、夏限定の「おざら」というのも初めて食しました。ほうとうは麺を茹でずにそのまま鍋で煮込むのに対し、おざらは一度茹でた麺を冷水で締めてから温かい醤油ベースのつゆでいただくものです。なるほどこれは夏向きだ!と思いましたが、ちょっと量が多過ぎて大変でした。

続いて向かったのは、これまた甲府駅から徒歩圏内のサドヤワイナリーさんです。江戸時代から続く油販売業の佐渡屋が1909年(明治42年)に洋酒・ビールなどの販売を手掛ける「サドヤ洋酒店」に転業し、1917年(大正6年)からワイン醸造販売を手掛けるようになったそう。この年をワイナリーとしての創業の年としているそうです。敷地はそれほど広くありませんが、中には売店、レストラン、チャペルがあり、甲府市内でもとりわけ人気の結婚式場になっているという話でした。

あらかじめ申し込んであったワインセラー見学ツアーは、係の人の案内で地下の醸造所・貯蔵所を見て回るもの。ワインの作り方を解説しながらかつての醸造設備を見せてくれて、タイル張りの部屋そのものがぶどうを発酵させる地下タンクになっていることに驚きましたが、そこへの出入り口の小ささにも見学者一同驚愕。閉所恐怖症の人には絶対無理な仕事です。

見学終了後はショップでお買い物。実を言うと私自身は甲州種の白ワインは苦手なのですが、赤白5本で1万円(送料無料)とお買い得なセットを弟一家のところに送ることにしました。気に入ってくれればよいのですが……。

さて、甲府からJRで勝沼ぶどう郷へ移動すると、駅のホームからはちょうど雲間から夕日が差し込んでいるその手前にぶどうの丘が見えました。あそこまでは徒歩で15分ほどです。以前、甲州高尾山に登ったときの帰り際に立ち寄ったことはありますが、泊まるのは初めて。

チェックインしたら少しのんびりしたいところでしたが、レストランの予約を18時に入れていたためただちにディナーに向かいました。正面には曇りがちながら神秘的な夕焼けを眺め、ワインをいただきながらおいしいディナーを堪能しているうちに穏やかな時間がたっていきます。

食後に外に出て展望台から甲府盆地の夜景を眺めてほっこりした後、「天空の湯」で温泉につかって癒しのひととき。なんと贅沢なことでしょう。

2022/08/29

翌朝、朝食後に再び展望台から甲府盆地を見下ろすと、彼方に南アルプスの山々が連なっていました。あそこを縦走したのは何年前のことになるのか……。

地下のワインカーヴにも入ってみました。ここには甲州市推奨の約200銘柄・約2万本のワインが揃っており、タートヴァン(試飲容器)を購入すればいくらでも試飲できることになっています。

もちろんそのこと自体も楽しかったのですが、奥まったところにある小部屋に展示されていた創業時の模様の紹介を、とりわけ興味深く見ることができました。ワイン作りに取り組むために明治10年にフランスに派遣された高野正誠(25歳)と土屋龍憲(19歳)の二人は、45日間の航海の後にマルセイユに上陸してパリで語学研修を受けてから、シャンパーニュ地方で栽培法と醸造法を学んで明治12年に戻ってきたということです。辞書も十分なものではなかったはずのこの時期に渡欧した二人の若者の苦労を思うと、胸が熱くなってきます。

違うコーナーには、彼ら二人の渡欧から満100年を記念して1978年に設置されたタイム・カプセルとそこに納められたワインの数々が展示されていました。このタイムカプセルは2078年に開封される予定だそうですから、この日ここで試飲した人の中には、その開封に立ち会うことができる人もいるかもしれません。

ところで、こちらには皇太子殿下(当時)と雅子妃(当時)もお見えになったことがあるらしく、随所にその写真が飾られていましたが、構図をみるとどの写真も雅子さまにフォーカスしているように見えたのは気のせいでしょうか?

カーヴ見学を終えてぶどうの丘を辞し、近くにあるぶどうの販売店でぶどうを購入。シャインマスカットとピオーネの詰め合わせ(1,800円也)で、帰宅してから食べてみたところ、いずれもピュアな甘みがあっておいしいぶどうでした。

かくして買付けと宿泊という旅の目的を果たして、勝沼ぶどう郷駅から帰路につきました。こんなにのんびりした週末(土日ではなく日月ですが)の過ごし方は、自分にしては珍しいことです。