埋没

2023/01/31

モンベル主催「山岳ガイドが指導する雪山登山技術実践講習会」に参加してきました。主眼はこれまで使ったことがないアバランチビーコンの使い方の習得です。

山行前に何度も泊まった(今は泊まれません)懐かしのベースプラザ前に10時20分集合。冬山らしく軽く雪が舞っている状態の中で顔合わせを行い、雪崩発生のメカニズムについてのごく簡単な説明があった後に、谷川岳山岳資料館の近くの雪面に移動しました。

まずは弱層テスト(シャベルコンプレッションテスト)の実践から。雪面にシャベルを置いておおむねその大きさに前と左右を掘り出し、最後に背後をスノーソーで切って四角柱を切り出して、上からシャベルで叩きます。どのくらいの強さや回数で叩くと崩落や破断が起きるかによって危険度を判断してその後の行動を選択するわけですが、実際にやってみたところ軽く手首を使って手のひらで叩いただけで上から5cmほどのところにピシッと横筋が入り、さらに力を強くすると上から60cmくらいにも破断面が現れたのには驚きました。

ついで埋没体験。うつ伏せになって口の前の空間を両手で確保してから、身体の上に雪をどかどかと乗せてもらって3分間耐えるだけです。1分ごとに声が掛かり、これが聞こえたら露出させてある足を動かすことで安全が確保されていますが、周りに人がいることがわかっているから不安にならないものの、これが実際に雪崩に巻き込まれていつ探し出してもらえるのか(もらえないのか)わからない状態で身動きがとれなくなったら、それはそれは恐ろしいだろうと思いました。また、普通の深さで呼吸しているだけなのに、息を吸うタイミングで胸郭が広がると雪に圧迫されて胸を広げられないという感覚も初めての体験でした。

昼食休憩を挟んで、午後はアバランチビーコンを使った探索訓練。参加者同士、ビーコンでの探索・プロービング・掘り出しと役割を変えて、講師が雪の中に埋めたビーコンを見つけ出す練習を重ねました。私は購入したばかりのマムートBarryvoxを持ち込みましたが、最初は7分もかかった(生存リミットは15分)探索もコツがつかめてくるにつれて時間が短縮され、優秀な組では1分台で見つけることができるようになりました。もっとも、これは探す対象が30cmほどの深さに埋められているからであって、1mも2mもの深さに埋まってしまっていたらこれまた大変そうです。

これはいわゆるひとつの生涯学習?リスキリング?それにしてもスキーをやらないのになぜ今さら……と思われるかもしれませんが、この講習を受けようと思ったきっかけはスキーを始めようと思ったからではなく、また、このところ頻発しているバックカントリースキーでの雪崩事故でももちろんなく(この講習への申込みもビーコンの購入も昨年12月のことでした)、昨年4月の赤岳での雪崩事故のレポートを見てのことでした。

【調査速報】220401八ヶ岳赤岳・雪崩事故(日本雪崩ネットワーク)

この報告書の最後の「補記」にある、次の一文を実践しようというのが受講の動機です。

雪山での活動(登山であれ、山スキー等であれ)が公助という社会リソースを使ったサポートを受け続けるには、その活動に係わる方、それぞれができることを実施する必要があります。雪崩地形がある場所で行動する際は、雪崩ビーコンの携帯をお願いします。

今回受講した講習会は10時過ぎから始めて14時半に終了し、途中30分ほどの休憩をはさみましたから実質4時間の講習でしたが、やはり実地にやってみると一つ一つの手順がその意味も含めて身についてきて、参加した甲斐のある講習会でした。内容自体はごく初歩的なものとはいえ、経験度が0と1とでは決定的に異なるということを実感するには十分だったと感じています。