風評

2023/04/14

登山に際して「山行計画の共有」「捜索体制の確保」「山岳保険への加入」は必須事項ですが、私は山行計画をCompassで作成・共有し、ココヘリで万一に備え、jROで捜索費用を賄うという組み合わせをここ数年続けています。特に後二者が昨年統合されたことでますます利便性が高まったかなと喜びつつ、これらのサービスに安全面を頼りながら山行を続けていたのですが、4月13日にココヘリを運営しているAUTHENTIC JAPAN(以下「AJ社」)から長文のメールが届きました。文面にちょっと異例なほど緊迫したものが感じられるので、以下にその内容を紹介します。

この文面の最初の方にもあるように、発端は4月12日にTwitterに投稿されたツイートで、このツイートに対して「ヘリが飛ばなければ発信機はただのキーホルダーだ」といった風評が引用ツイートやリツイートの形で拡散し始めていたことを私もリアルタイムで見ていておやおやと思っていたところでした。

投稿者がどういう意図でこのツイートをしたかは不明ですが、遭難者は釣りで入山したこともあってか登山届を出しておらずココヘリ会員証(発信機)も携帯していなかった上に、ココヘリに捜索依頼を行った「妹」さんがココヘリの仕組みを十分には理解していなかった様子がその後のツイートで判明しています。そうした背景情報を伴わずに風評というのは拡散するものですが、この事象に対してAJ社がとった対応は迅速かつ徹底したものでした。それが最初に紹介したメールです。

上記の通り、震源地となったツイートが投稿されたのは4月12日で、これに対するAJ社からの火消しメールが私の手元に届いたが翌日の正午過ぎ。しかも通りいっぺんの説明だけでなく、捜索依頼を受けたときの初動からクロージングまでの間のAJ社内での対応状況が開示されている点が画期的です。

上の画像はその抜粋ですが、これをクリックすると社内対応の全体像が見られます。

この思いきった情報開示を受けてのTwitter上の反響は大きく、一連の経緯を知らなかったココヘリユーザーも含めてポジティブに反応し、一部のアンチ反応(「感動的な物語」を発信するなといった)はあったものの大勢としてはココヘリサービスの信頼度アップにつながったように思われます。

ここで私が注目したのは、登山者目線で見た場合のココヘリサービスの信頼度そのものではなく、拡散しかけたネガティブ情報に即座に反応し踏み込んだ情報開示を行ったことで企業価値と自社従業員の名誉を守ったAJ社の対応の見事さでした。遭難者の捜索活動は、発見することを確約できないだけにここまでやれば責務を果たしたと言える線を引くことが難しく、このため活動ボリュームを指標として料金に結びつけるしかない(つまり請負型ではなく準委任型)と思われるのですが、そうした中でも捜索活動の質を維持するためにはサービス提供者側の職業的責任感とこれに対するユーザーの信頼とが結びつく必要があります。今回の一連の騒動はこの両面を揺るがしかねない事態だったわけですが、これに対し迅速かつ徹底した対処を行い得たAJ社経営陣の危機管理感度は相当に高かったと評価できますし、一連の対応でココヘリサービスの信頼度のみならず利用上の留意点の再確認を行うことができたユーザーもまた本件での受益者であるという点も看過してはならない点です。

今回の一連の経緯は、企業の危機管理対応という観点でのひとつのモデルケースになったように思います。もしかすると、今後こうしたテーマでの研修などで教科書に取り上げられる事例のひとつとなるかもしれません。