捜索

2023/04/21

『「おかえり」と言える、その日まで ―山岳遭難捜索の現場から―』(新潮社)を読みました。

この本を読むことにしたきっかけは、Yahoo!ニュースの記事に載った本書の抜粋を読んだことでした。そこで取り上げられていた事案は丹沢での遭難で、かいつまんでその内容を紹介すると次の通りです。

  • 丹沢に沢登りに入った登山者が下山しなかった。計画(上図)では初日に鍋割山を越えて玄倉川上流からユーシンに設置(常設)したテントに入り、2日目に周辺の沢を複数遡行してテントに連泊、3日目にさらに沢を登って西丹沢VCへ下山するはずだった。
  • BCとなるユーシンには川に冷やしたビール2本が残されており、遭難は2日目のことと考えられたが、その予定ルート上を重点的に捜索しても見つからない。
  • 筆者は遭難者の家族との会話の中から遭難者の性格を知り、そこに糸口を見つけて意外な遭難場所に思い至り捜索範囲を変更した結果、そこで遺体を発見することになる。

著者の中村富士美さんは山岳遭難者の捜索活動を行う団体に属する医療従事者の方で、掲載されている事案は上記の丹沢のほか、棒ノ折山、飛龍山、秩父槍ヶ岳、庚申山、巻機山。これらの事案のすべてが、初動の捜索が打ち切られてから相当の日数が経過した後に遺体の発見に至るというものですが、行方不明者のプロファイリングを行って遭難場所を推測するプロセスや、捜索期間中における家族の精神的なケアに目配りしている点などが特徴的でした。

さて、読み終えてみると、あらためて基本に忠実にということを痛感します。

  1. 登山計画書は必ず共有(丹沢の事案もこれがなかったら見つからなかったはず)。
  2. 山岳保険は必須(家族が捜索費用の負担に耐えられない場合があることが書かれています)。
  3. ココヘリは正しく使う(旧タイプだったので電源スイッチを入れ忘れていた事例あり)。
  4. 衣類のどこかに青色のものを含める。

ちなみに私自身は以前書いたようにココヘリ+jROで、Compassで登山届を提出する際にココヘリIDを登録しているので上記の1点目から3点目までは大丈夫。しかし、青い衣類というのはまず着ることがない(沢登り用のウェットスーツくらい)ので考え込んでしまいました。以下、その理由について本書から引用します。

青は、自然界に絶対にない色だ。リュックではなくても、キャップか上着か、どこかに青いものを身に着けてほしい。赤や黄色は紅葉や落ち葉と同化してしまうし、緑は新緑の時期、見えにくくなる。

何はともあれ、本書は文章がとても読みやすく内容も身につまされるものである上に、プロファイリングから遭難の実相に迫る点で推理小説の趣きもあって、集中すれば半日で読了することができます。強くオススメです。